『海と毒薬』(1986年 日本)
画像:リンクより
遠藤周作原作・熊井啓監督・奥田瑛二×渡辺謙
ベルリン映画祭銀熊賞に輝いた問題作
今朝の1日1映画は『海と毒薬』(1986年 日本)を鑑賞。
敗色も濃厚となった昭和20年5月。
九州のF市にも毎晩のように米軍機による空襲が繰り返されていた。
医学部の研究生、勝呂(奥田瑛二)と戸田(渡辺謙)の二人は物資も薬品も揃わぬ状況下でなかば投げやりな毎日を送っていた。
そんなある日、二人は教授たちの許に呼び出された。
それは、B29の捕虜8名を使った生体解剖実験を手伝えというものだった……。
太平洋戦争末期に実際に起こった米軍捕虜に対する生体解剖事件を描いた遠藤周作の同名小説を、社会派・熊井啓監督が映画化。
1987年の第37回ベルリン国際映画祭・銀熊賞審査員グランプリ受賞。
1986年度の第60回キネマ旬報ベストテン日本映画第1位及び日本映画監督賞受賞した作品です。
白黒なので、昭和30年代ぐらいの作品かと思ったら、映画監督の熊井啓によって1969年に脚本化されていならがらも、その内容のためスポンサー探しに苦戦し、やっと17年後の1986年に映画化されたという逸話が。
なるほど、見てみるとかなりショッキングな内容です。
実際にスタッフから採血した血や動物を使った手術シーンなどは生々しくて、白黒映画でよかった思うくらい。
それにしても「組織」を描いた映画としては秀逸ですね。
戦争を扱った映画は、「軍隊」という組織がもたらす狂気を描いた作品が多いですが、この作品はその軍隊プラス、「病院」という組織にある権力争いも同時に描かれ、狂気が2重構造となっている。
こういった絡ませ方ってありそうでないし、それを2時間にぎゅっと収めこんであるというのもなかなかないなあと。
奥田瑛二さん演じる主人公・勝呂研究生は、人を助けるという医者としてとしての本来の倫理観をもった一青年ですが、軍や病院の目的を叶えるために葛藤し、一個人の思いを犠牲にしていく。
その姿は、ほんとやるせない気持ちになります。
仲間の戸田研究生役の渡辺謙さんのクールな存在感ある演技もいいんですが、印象に残るのは大場看護婦長役の岸田今日子さんと看護婦・上田役の根岸季衣さん。
セリフよりも表情で語る力がすごくて、見終わった後に印象に残っているのはこの二人だったりします。
覚悟を決めたら揺るがないというか、そういう女性ならではの強さがにじみ出ていて。
特に根岸季衣さんはベッドシーンで、足元から映す、宙を見ながら思いにふける表情が、気持ちの上で一線を越えた表情をしていて非常に印象的です。
音楽は、マリンバが特徴的。
先日見た『アイ・アム まきもと』にも使われていたマリンバ(記事リンク)。
温かいぬくもりと哀愁があるその音色が、勝呂が葛藤する場面に流れていて、勝呂にある人間の心や倫理観を象徴しているように思えます。
個人的に今まで見た戦争系映画で一番衝撃的だったのはドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』(監督:原 一男)ですが、この作品も実際にあった事件を扱っているということで、それに匹敵するくらい衝撃的な作品のような気がします。
PS:オープニングクレジットで助監督に「原 一男」とありまして、びっくり。『ゆきゆきて、神軍』(1987年)の前の年にこの映画に関わっていたんですね。
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