『獣人』(1938年 フランス)
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暴力衝動に駆られる男と美しい人妻との悲劇。
ジャン・ギャバン主演のサスペンス。
今朝の1日1映画は『獣人』(1938年 フランス)を鑑賞。
先天的な精神疾患を持つ鉄道機関士ジャック(ジャン・ギャバン)は、恋人を故郷にしながら病のために結婚は諦めていた。
そんなある日、上司(フェルナン・ルドー)とその妻セヴリーヌ(シモーヌ・シモン)が、富豪の義父を殺したことを知ってしまうものの、セヴリーヌの美しさに魅了され沈黙を守る。
彼女はジャックに接近して「自分は夫に殺される」と相談しつつ誘惑し…。
フランス自然主義文学の大家エミール・ゾラの同名小説をジャン・ルノワール監督が映画化した文芸サスペンスです。
冒頭に主人公の遺伝的な精神疾患についての字幕説明が入り、それから5分ぐらいはずっと走る機関車と石炭をくべる火夫をしている主人公をセリフなく(ジェスチャーで)とらえている。
印象としてはアールデコを代表するフランスのデザイナー、A.M.カッサンドルの「NORD EXPRESS」の機関車のポスターのイメージ。
日本では沢木耕太郎作『深夜特急』シリーズの装丁で広く知られていますが、あの絵のような、モクモクと黒煙を吹き出しながら走る機関車の車輪をとらえた奥行きのあるショットが印象的です。
お話が結構面白く、「いい人VS悪い人」という単純なものではなく、「みんないい人であり悪い人である」という、一人の人物の中に善人の部分とと悪人の部分が共存している様子がうまいこと描かれている。
なので、誰を信じていいのか分からない感じ。
これがサスペンスとして秀逸ですし、「真実」を描くために美化せず、「遺伝」と「社会環境」の因果律の影響下にある人間を描き見い出そうとする原作エミール・ゾラの世界観なんだなあと思わされます。
監督ジャン・ルノワールの、構図としての素晴らしさはもちろんなんですが、“肝心な部分をあえて見せない”演出も良くて。
殺人など、衝撃的なことがあったときに、ダイレクトにその場面を映さずに、加害者や目撃者の表情や動き、後ろ姿、キーとなる持ち物などをクローズアップ。
そのことによって品が保たれ、想像力が膨らんでストーリーに広がりが出るんですよね。
アップショットも多く、ジャック(ジャン・ギャバン)視線の向きと、セヴリーヌ(シモーヌ・シモン)の視線の向きの違いでその思いの微妙な距離を表現。
上司(フェルナン・ルドー)とセヴリーヌ(シモーヌ・シモン)は背中合わせに立たせて会話させることによって、もうその関係が冷えていることも見て取れる。
細かい演出の一つ一つや人間関係や事象が積み重なって全体像になっていることが良く分かります。
1930年代の映画でも、描かれていることは普遍的で、人間のやることや気持ちの感じ方はそんなに変わっていない気が。
今に通じることがたくさんありますね。
↓予告編
PS:映画の中に出てくる飲み物、セヴリーヌ(シモーヌ・シモン)の好きなワインは「マラガワイン」。スペインの都市マラガに起源をもつ甘口酒精強化ワインで、デザートワインのような味わいらしくて。一度飲んでみたいです。
↓ジャン・ルノワール監督映画はこれらも見ました。
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