『元禄忠臣蔵・前篇』(1941年 日本)『元禄忠臣蔵・後篇』(1942年 日本)
Kenji Mizoguchi - リンクによる
チャンバラではなく会話劇。
溝口健二監督が描く静かな赤穂事件。
今朝は『元禄忠臣蔵・前篇』(1941年 日本)『元禄忠臣蔵・後編』(1942年 日本)の2本を鑑賞。
浅野内匠頭(五代目嵐芳三郎)は江戸城・松の廊下で吉良上野介(三桝萬豐)に斬りつけたかどにより切腹を命じられる。
さらに浅野が藩主を務める赤穂藩はお家取り潰しとなってしまう。
赤穂藩では国を守るために戦うか、あるいは主君に殉じて切腹をするか、意見が真っ二つに分かれていた。
家老の大石内蔵助(四代目河原崎長十郎)は、幕府に城を明け渡すことになり…。
青山青果の原作を、前進座一党出演のもとに溝口健二監督が大作として制作した作品です。
忠臣蔵は以前何かの映画を見たことはあるんですが覚えてなく、大石内蔵助、吉良上野介、浅野内匠頭ぐらいの主要キャストしか分からない状態で鑑賞。
うーむ…もっと派手な立ち回りがあるのかと思いきや、予想に反してこれは静か…。
原作を調べてみると、派手なチャンバラがあるのは江戸時代からの『仮名手本忠臣蔵』の方で、この『元禄忠臣蔵』は、明治以降の“新歌舞伎”と呼ばれる、人間模様や登場人物の心理描写を中心に物語が展開する極めて文学性の高い作品群の方。
どおりで。
宇宙系映画で例えると、チャンバラや射撃戦など見せ場の多い『スター・ウォーズ』の方ではなく、船内での会話や異星人のと交流が中心の『スタートレック』の雰囲気。
主人公が旅をしながら敵と戦い成長する物語ではなく、組織の中でどう立ち振る舞い、決断し、責任を取るかというような部分を取り上げた群像劇となっています。
「討ち入りじゃー!」「ワー!」(バッサバッサ)とか、ないですから。
技法は全身が入るぐらいのミドルショットによるワンシーン・ワンカットの長回し。
そのため、役者さんはセリフをしゃべりながらリアルタイムに感情が湧きあがってくる感じで、まるで舞台を見ているかのようです。
映画としての緩急やドラマティカルな演出があまりないのと、やはり古い映画だからか音声が聞き取りづらいので(ヘッドホンを付けてで鑑賞)ちょっと退屈ではあるんですが、セットなどをじっくり見ると超本格的に作ってある!
溝口監督は時代考証に厳格を極め、松の廊下を原寸大で再現。
クレジットには建築監督として「新藤兼人」の名前が!
新藤監督は、監督・脚本だけでなく建築の才能まである人だったんですね。
その他調べられる限り史実に忠実に追った、衣装、道具類、ヘア・メイクも見ごたえがあります。
長ーいレールに乗せられたクレーンカメラが人物をどこまでも追うドリー(平行)撮影。
手前と奥で別々の感情の芝居が展開する俯瞰カットなど、溝口監督ならではの画作りも楽しめます。
また、時代だなと思ったのは、1941年(太平洋戦争開始)制作で、映画の冒頭に「護れ 興亜の兵の家」「情報局国民映画参加作品」と書いてあること。
映画の中にも侍たちが朝廷のある方向に向かってひれ伏して頂礼をするシーンが数か所あり、戦争のプロパガンダ目的で作られた作品だということがうかがえます。
忠臣蔵の内容については、このあたりの歴史を勉強すればもっと楽しめると痛感。
まずは犬たちのアニメーション『わんわん忠臣蔵』からですかね(笑)。
↓前篇 予告編
溝口健二監督作品はこれらも見ました↓
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