『パリの灯は遠く』(1978 フランス・イタリア)
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アラン・ドロン主演。
独特の世界観で主人公を静かに追い詰める不条理サスペンス。
今朝の1日1映画は『パリの灯は遠く』(1978 フランス・イタリア)を鑑賞。
1942年、ナチスドイツ支配下のフランスで、パリでユダヤ人の貴重品を買い叩いて美術商を営むクライン(アラン・ドロン)は、やがて同姓同名のユダヤ人と間違われ、身の潔白を証明するために弁護士(ミシェル・ロンズデール)に協力を求めつつ、もうひとりのクラインを探し回るのだが…。
70年代を代表するフランスの大スター、アラン・ドロン主演の不条理サスペンス映画です。
いやー、すごい重厚な映画ですね。
オープニングからユダヤ人かどうかを調べるために、顔や骨格を図り数値化してモノのように扱うショッキングなシーンが。
1942年のドイツ軍占領下のパリって、ユダヤ人狩りがこのように行われていたんだと思うと背筋が凍ります。
画質の色味は彩度が極力抑えられていて、生命力や現実味のない、不思議な世界が展開。
アラン・ドロンやジャンヌ・モローは美しいんですが、表情に乏しく魂が抜けてしまっているような、人間の「形」の美しさを際立たせてある感じ。
音楽はほとんどなく、劇中のラジオや合唱、ミュージカルシーンの他は、不安な空気を表すような曲がたまに流れます。
同姓同名の見えない敵と戦いながら「自分は何者なのか?」と探し回る姿は、迷路に迷い込んだアリスのようで、不安感や焦燥感が主人公自身を追い詰めていきます。
その姿を見ているうちに、見ている方も不安になってくるんですよね。。
古物商ということで、古美術に囲まれた生活をしているんですが、そのモノたちが怪しさたっぷりだし、出てくる城や人もなんだか不気味。
カメラや照明もホイップズームやライティングで怖さを演出してあります。
ラストへの展開もとっても不条理で皮肉たっぷり。
難題に巻き込まれる平凡な男性の内容ではありますが、この感じはあまり見たことがないタイプの映画です。
調べてみると、夢の世界を想起させる作家、フランツ・カフカ作品との関係が注目されているそう。
鏡が多用され、エンドロールは無音で、見終わっても映画の世界がまだ続いているような錯覚に。
見た人が自分自身に置き換えて考えてほしいという監督からのメッセージを感じ取れます。
監督のジョセフ・ロージーはアメリカ生まれですが、赤狩りの影響で1953年にイギリスに亡命。
以後イギリス、あるいはフランス等で作品を作り続けました。
監督自身の国を追われた経験がこういう映画にも生かされているのかも。
この独特の世界観、体験してみるのもアリかもです。
PS:同姓同名といえば、私も昔、「○○が未払いです」「○○県に住んでいらっしましたよね?」と何度も電話がかかってきて、疑われて不安な思いをしたことがあるんですが、結局同姓同名の人だと分かり、ホッとした記憶があります。
“よくある名前”の方、お気を付けください。
↓予告編
主要登場人物の1人、ジャンヌ・モローはこの映画も良いです↓