『遊び』(1971年 日本)
デビューして間もない関根恵子(現:高橋惠子)の大胆で瑞々しい演技!
圧倒的な推進力で魅せる青春映画
今朝の1日1映画は『遊び』(1971年 日本)を鑑賞。
貧しい生活の中、町工場で働くこと以外、何もすることのできない16歳の少女(関根恵子/現:高橋惠子)。
ある日18歳の少年(大門昌明)に声をかけられ、喫茶店や映画館でデートを重ねる。
しかし、少女は、生まれて初めて優しく自分に接してくれた少年がヤクザであることを知らなかった…。
大映倒産の直前に撮り上げた青春映画の秀作です。
いやー、圧巻ですね。
熱い。
熱量がものすごい!
高度経済成長に日本の底辺を支えながら一生懸命貧しく暮らす八方ふさがりの若い少年と少女が出会い、突き進んでいくこの感じ。
情報過多な今の時代にはこの雰囲気の映画を撮ろうとしても撮れない感じがありますねぇ。
それにしてもこの熱い芝居、増村監督作品らしいのですが、主演の二人の演技が振り切れちゃってるぐらいの熱さ。
少女役の関根惠子(現:高橋惠子)は撮影当時15歳~16歳。
大胆なヌードシーンもあり、ものすごい覚悟を持って臨んでいて純真さとともにその気迫が伝わってくるようなまっすぐな演技です。
少年役の大門昌明は当時21~22歳で、ヤクザとして生きるのか、少女をヤクザに売り飛ばすのではなく、ヤクザから守って生きるのかの葛藤の演技がもう少年ならではの不器用さとともにヒリヒリするほど伝わってきて胸を打つ。
15~6歳の女の子に「私、こんなの初めて」と何度も言われたらそりゃ何としてでも大事にしたくなりますわ。
演技的に動きの動線も演技もセリフも過剰なくらいですが、それがこの切羽詰まった2人の世界観にバッチリハマって相乗効果をもたらしているんですよね。
カメラアングルも美しく、三分割法により重要な要素を切り取り、ハイアングル、ローアングルで人物を際立たせてあります。
特にホテルの部屋に備えつけられた赤い提灯が効果的で、少女を自分のものにしていいのかどうかの葛藤を提灯の揺れとともに表現してある。
そしてラストシーンの、ロングショット+ミドルショットでの突き進んでいく2人は本当に美しい。
『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督作品『寝ても覚めても』(2018)も好きな映画の1つなんですが、草むらで猫を探すシーンがありまして、そのシーンがこの『遊び』のラストシーンになんか似ていて。
すごく好きなシーンなので、うわっと思いました。
別世界に連れて行ってくれる感が半端ない増村監督作品、外れがないですね。
↓オープニング
増村保造監督作品はこれらも見ました↓
『頭上の敵機』(1949年 アメリカ)
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「異動するのは簡単だが、義務からは逃れられない。運命を受け入れるしかない…」(映画より)
”中間管理職”の気持ちがよく分かる作品
今朝の1日1映画は『頭上の敵機』(1949年 アメリカ)を鑑賞。
第931爆撃隊に赴任して来た鬼准将(グレゴリー・ペック)。
彼の強引なやり方に隊員たちは不満を抱くが、やがてドイツ本土爆撃という目的の下に彼らの間に強い連帯感が生まれる……。
実話を基に製作され、いつ死ぬとも判らない隊員の心情と指揮する者の苦悩が見事に描かれたヘンリー・キング監督による空戦映画の名編です。
先日見たクリント・イーストウッド監督・主演の映画『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』と同じような感じはありますが、こちらは軍の組織形態に絞った形で展開。
兵士といかに向き合い育成し、最大の成果を上げるかという「人材育成」を描いた作品です。
なので、今でも軍や企業のリーダーシップの基本を教える教材として使われているそう。
アメリカ空軍やドイツ空軍が撮影した実戦の模様を捉えたフィルムを入れ込み、戦争を忠実に再現した内容となっています。
「准将」という立場の、軍でいうところの“中間管理職”の男性が主人公で、上司の命令と部下の育成に挟まれ、命令を遂行するため兵士たちをどう指導して目的を達成するか。
目的達成のために兵士をモルモットのように使うと不満が出るし、兵士に感情移入しすぎると目的が達成できない…。
その葛藤を皮肉も交えて描いてあり、中間管理職の苦悩がよーく分かります。
飛行機や機械ではなく人間に主眼を置いたこの作品。
音楽は最初と最後しかなく、会話を中心に物語が進み、見終わったあとの余韻も残る。
戦争の舞台裏ではこのような指示系統がなされ、兵士を扱っていたということを知ることができます。
兵士も「異動願い」が出せるんだというのも初めて知りました。
カメラはミドルショットの室内クレーンが多いですが、目線のみで魅せる演技や実際の戦闘映像とのコラージュなども見どころ。
軍という組織が人間を狂わしていく様子とともに、置かれた場所で臨機応変に考え対応する大切さなど、中間管理職でなくても組織に属する身としては考えさせられる深い映画です。
PS:空軍施設の造りが半円形の“かまぼこ形”で、広島市南区比治山にある、アメリカ陸軍施設を利用して開設したABCC(現在「放射能影響研究所」)と同じ。
なんだか身近に感じますね。
↓予告編
『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』(1972年 日本)
真山知子(蜷川実花の母)の覚悟を持った身体を張った演技が見事!
ダイナミックな殺陣で世界に影響を与えたアクション映画
今朝の1日1映画は『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』(1972年 日本)を鑑賞。
柳生烈堂の陰謀により一族を惨殺され、公儀反逆の汚名を着せられた拝一刀。
公儀の裁きを拒絶した一刀は、柳生の陰謀を暴き復讐せんがため、一殺・金五百両の雇われ刺客となり、その子・大五郎とともに血と屍の魔道へと踏み込んでゆく!
『座頭市』『眠狂四郎』の三隅研次監督によるシリーズ第1作です。
原作は漫画で、テレビシリーズは見たことがあるんですが、テレビドラマ化の前に勝新太郎がプロデュースして映画化したのがこの作品
漫画のコマ割りのようなあらゆる角度のカット、光と影を上手く使った美しい構図がたくさんあって、「ウワッ」「ウワワッ」の連続!
ほんと魅せますねぇ。
斬りながら宙を飛んでいたり、大勢の刀に囲まれるショットなど非常に印象的なシーンに、ヌードを多用したエロ、血ドバドバや手足首が転がるグロが加わり、てんこ盛りの様相で見る者を飽きさせません。
カメラを下に上向きに置いて、レンズの上に大量の血を吐くなんていうシーン、そうそう見たことないですよ!
タランティーノ監督や園子温監督が影響を受けていること間違いなしです。
主人公・拝一刀(若山富三郎)の演技は『大菩薩峠』の机竜之助と同じく感情を排した“刀で語る”演技。
その分、個性豊かなわき役たちの演技や存在が光ります。
個人的にカッコイイ! と思ったのは、拝一刀を助ける女郎お仙(真山知子)。
セックスシーン、ヌードシーンがあり身体を張った演技を披露しているんですが、拝一刀を守るため、覚悟を持って臨むその姿は本当に説得力がある。
「てめえのへその下のせがれに聞いてみな!」
「命が惜しくて震えているときに、てめえちゃんと女を抱くことができるかい?」
前後にいろいろあってのお仙のこのセリフなんですが、一見見えない様相の中に、拝一刀にどういう心理が働いているのか、心の奥底を見抜いて代弁しているこのセリフがね、彼女がこれまでどれだけの男と共にしてきたか、女性しか分からない、人間としてのプライドと慈しみを同時に感じさせるシーンでグッとくるんですよね。
で、調べてみたら、このお仙役の真山知子さん、写真家・映画監督の蜷川実花さんのお母さまなんですね!
ちょっとびっくりなんですが、この堂々とした演技は見ごたえがあります。
子連れだけどすごいという域を超えた、映画としてあらゆる角度から見ごたえがある作品です。
↓予告編
『ブルー・ガーディニア』(1953年 アメリカ)
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ナット・キング・コールも登場!
明るく小粋なサスペンス
今朝の1日1映画は『ブルー・ガーディニア』(1953年 アメリカ)を鑑賞。
誕生日の日に恋人から別れを告げられたノーラ(アン・バクスター)は、画家のハリー(レイモンド・バー)の誘いに乗って食事に出掛け、部屋に立ち寄るのだが、翌日、彼は死体で発見される。
犯人と疑われた彼女は、著名な新聞記者(リチャード・コンテ)に助けを求めるのだが…。
ナット・キング・コールの歌う主題歌が評判になったフリッツ・ラング監督の日本劇場未公開サスペンス作品です。
ほほう、これは素敵で小粋な映画ですね。
ノワール・サスペンスと聞いて構えてたんですが、全編にわたってメロドラマとしての要素が強く、「犯人を捜せ!」ではなく「ばれたらヤバイ!」の方向で、主人公の女性の気持ちになれ、観ながらドキドキ!
全編にわたってウイットに富んだ会話が楽しく、皮肉を含んだ「前振り+本題」「本題+オチ」みたいな小洒落た雰囲気がありますね。
主人公のルームシェアをしている女友達同士の会話なんて気ごころ知れた仲間じゃないと話せない内容で。
中盤からいろんな伏線がカギとなったサスペンスの様相に。
キーとなる物として鏡、花、歌、レコード、絵、ハンカチ、タフェタ(ドレス)といろんなものが登場。
各シーンに華やなさがあって、ナット・キング・コールご本人の登場はお宝級です。
歌やレコードがキーとなっている映画というと『シー・オブ・ラブ』『危険な情事』を思い出すんですが、匂わせとしての雰囲気が抜群。
編集は見せたいシーンをとことん見せて、見せなくても分かるシーンは大胆に省略。
ミニマムな編集によってテンポよく仕上がっています。
これは自主映画にも使える技ですなぁ(警察署や裁判所が映ってないのに成立している!)。
ラストの含みのある終わり方もよいです。
カメラワークは室内クレーンが多く、スムーズ。
フリッツ・ラング監督と撮影監督のニコラス・ムスラカは、この映画でクローズアップを可能にする革新的なカメラ用台車を開発。
グイーーンと寄るアップショットで俳優の親密さをとらえています。
二重イメージ、目線カメラなども効果的。
この『ブルー・ガーディニア』(青いクチナシ)というタイトルは、公開当時「ブラックダリア事件」というセンセーショナルな猟奇的殺人事件がアメリカを震撼させていて、それを皮肉って注目させるために付けられたそう。
また映画には、恋人が朝鮮戦争に行っているとか、水爆実験の取材に行けと命令されたり…などが出てきて、結構当時の社会や世相を反映。
歴史の出来事が我が事のようにリアルに感じます。
こういう日本未公開だけど良作ってあるんですね。
また一ついい映画を発見しました。
↓ナット・キング・コールのシーン
『ロンゲスト・ヤード』(1974年 アメリカ)
荒くれ者の囚人でチームを作れ!
個性豊かな面々が繰り広げるコメディタッチのアメフト映画
今朝の1日1映画は『ロンゲスト・ヤード』(1974年 アメリカ)を鑑賞。
かつてアメフトの花形選手だったポール(バート・レイノルズ)は車を盗んだ罪で刑務所に送られる。
看守たちのフットボール・チームを育成することにやっきの所長へイゼン(エディ・アルバート)はポールにコーチ役を命ずる。
やがてポールは看守チームの相手となる囚人チームの結成に同意し、荒くれ者たちを次々とメンバーにしていく。
かくして看守チーム対囚人チームが激突することに!
男たちの闘いを描いたロバート・アルドリッチ監督の痛快スポーツアクション作品です。
見始めて、とんでもない荒くれ者の主人公で、ちょっとビビったんですが、刑務所で目標を見出していくとタフないい男になっていきちょっと安心です。
この映画はキャラクターが立った映画。
個性豊かな塀の中の面々は、見た目にも経歴的にも分かりやすいキャラクターで、それぞれの事情でこの場に集まっている。
群像劇的面白さがあります。
コメディタッチな部分が多く、終始“笑い”のエッセンスが入れ込まれ、登場人物たちがみんなで笑うシーンがたくさん。
刑務所幹部vs囚人たちが激しいスポーツで勝負するという、体制側をぎゃふんと言わせる構図は痛快で、そのやり方は姑息な面もあるんですが、勝負に勝つ=自分に勝つという、チームプレ―+個人の成長も描かれていて魅せますね。
試合のシーンは見ごたえがあり、アメフト選手役には実際の選手もたくさん出演していて、主演のバート・レイノルズも学生時代にはアメフトの選手として活躍した経歴の持ち主。
体格が大きくて、黙々と選手たちを集め指導する姿は様になります。
日本の刑務所では運動会はあってもここまでのチームのスポーツ競技はないと思うんですが、アメリカならではの解放感とともに、刑の重さや人種差別など、アメリカ独特の社会が刑務所内にもあって、そのあたりはストーリー的に複雑さが出てきています。
アメフトのルールはよく分からないんですが、それでも楽しめる作品です。
↓予告編
『復讐は俺に任せろ』(1953年 アメリカ)
By "Copyright 1953 Link
抑制された感情、一瞬のこぼれる表情…。
一人の元刑事がギャングに挑むノワール・サスペンス
今朝の1日1映画は『復讐は俺に任せろ』(1953年 アメリカ)を鑑賞。
警官が自殺した。
ダンカンというその警官はギャングと内通していたのだ。
ところがダンカンの妻(ジャネット・ノーラン)は警察に嘘の報告をし、遺書を利用してギャングをゆすっていたのだった。
殺人課のバニオン(グレン・フォード)は疑惑を持ち捜査し始めるが、警察上層部にもギャングの勢力が及び、圧力がかかり捜査から外された上、妻を殺されてしまう。
復讐を誓ったバニオンは、たった一人で巨大組織に立ち向かう…。
ウィリアム・P・マッギヴァーン原作小説を映画化したフリッツ・ラング監督によるサスペンスです。
先日見たフリッツ・ラング監督『激怒』はイケイケな怒りに見ごたえがありましたが、こちらはサスペンスとしての静かな怒りが堪能できる作品ですね。
特徴的なのは主人公があまり直接的な感情表現をしないこと。
特に怒りや悲しみのような、感情表現があまり描かれない。
その場面すら描かずすっ飛ばしてあって、数時間後、数日後に話が飛び、その間に何があったかを会話で語る。
なので、非常にクールな印象は受けるんですが、その分、セットや別の会話、一瞬の表情で表現してあって、何があったかは十分伝わります。
感情の盛り上がりを画として見せることによって観客の涙を誘う…というのは昨今の映画では当たり前のようにありますが、当時のハリウッド映画では「感情」より「行動」を描くことを重視し、なんとか作品時間を90分~120分に収めるということをしていたようで、それでも伝わるカット割りというのを考えられているんでしょうね。
男女のセリフのやり取りはハードボイルドなかっこいいものが多いんですが、緩急の付け方にびっくりするような仕掛けが。
幸せな時間に、ものすごい不幸がいきなり訪れる。
『ゴッドファーザー』の、結婚式の裏で殺しが…みたいな、人生の最高潮にどん底が訪れるというのが描かれていて、幸と不幸が表裏一体の人生が描かれます。
(『ゴッドファーザー』がこの映画からヒントを得ているそうですね)
人間関係に渦巻く“欲”の描き方も深いし、復讐劇としてすごいやり方でを回収していくというのも爽快感が。
それぞれの登場人物を深読みしていくともっと深い味方もできるようで、結構練られた脚本になっていると思います。
物語の構成や人物の描き方が勉強になる1本です。
↓予告編
『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年 アメリカ)
By http://www.impawards.com/1986/heartbreak_ridge_ver2.html, Fair use, Link
昔ながらの鬼軍曹をイーストウッドが演じる
戦争アクション人間ドラマ
今朝の1日1映画は『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年 アメリカ)を鑑賞。
生涯を海兵隊に捧げてきた軍曹ハイウェーが、小隊指揮のために帰ってきた。
だが彼の再役は、実際の戦場で活躍したことのないエリート将校たちにとっては、カンに触るものでしかなかった。
そんな彼らに戦う意味の何たるかを教え込もうとするハイウェーだったが…。
製作・監督・主演クリント・イーストウッドの戦争アクション映画です。
戦争映画で派手なアクションもあるんですが、人間ドラマ部分が効いている映画。
軍曹ハイウェーは白黒で物事を判断し、厳しく気難しい性格で周りからの嫌われ者なんですが、数々の戦争経験からとっさの判断が適格で、さらに60歳ぐらいなのに強くて無敵。
恋愛表現も不器用ですが、心は誠実。
短所を長所でカバーする1人の人間の多面性を描いていて、愛おしいキャラクターとなっています。
セリフは皮肉が随所にちりばめられ、クーッっとうならされる。
新しい環境にはなかなかなじめないけど、苦楽を共にした戦友は彼のすべてを分かっていて、気楽に接することができるところもホッとさせられます。
音楽は状況に応じた雰囲気の曲が当てられているんですが、ミュージシャンを目指す兵士が歌う曲に加え、戦争が厳しい状況の時にあえて明るい音楽を入れているシーンもあって、音楽によって場面の見え方が180度変わるというのも体験。
照明は窓から差し込むカーテン越し、ブラインド越しの光が綺麗に映っていて。
1点、屋外で早朝のシーンなのに日差し(影)が10時ぐらいの感じがあって、それはちょっとリアルではなかったかも。。
あと死んだ兵士を仰向けにする際、兵士役の人が自分の力を使って仰向けになった感じがちょっと見えたかも…。
死んだ兵士役も演じ方が大変ですね…。
すみません、ツッコミはこのくらいにして。。
しゃがれ声でボソボソとしゃべるけど力強いあのキャラクターはクリント・イーストウッドならではで、星条旗をバックに映りこむ彼の姿は、アメリカを背負っているというかアメリカの魂みたいな、存在するだけで力強い俳優なんだということもこの映画で改めて感じます。
スタイリッシュなんだけど、細かな表現の積み重ねにより人間味があふれている。
そんなじんわりと響く世界観がこの映画でも味わえます。
↓予告編