『乳母車』(1956年 日本)
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ヒューマニズムあふれる田坂具隆監督が描く不思議なあたたかさ
今朝の1日1映画は『乳母車』(1956年 日本)を鑑賞。
波風ひとつない平穏な家庭で過ごしていると信じきっていた女子大生・桑原ゆみ子(芦川いづみ)。
友人から父に若い愛人がいることを聞かされ愕然とする。
しかもあろうことか、愛人には父の子供までいるという。
翌日、愛人である相沢とも子(新珠三千代)の家を訪ねたゆみ子は、留守のとも子の代わりに弟の宗雄(石原裕次郎)に出会い、父ととも子が本当に愛し合っていることを知るのだった…。
石坂洋次郎原作の小説を、巨匠田坂具隆が映画化する日活の文芸大作です。
いわゆる不倫モノなんですが、視点がちょっと変わっていますね。
普通だったら「バレたらまずい」という、ドキドキ感を味わうお話が多いと思うんですが、この映画はそこを楽しむ映画ではない。
主人公は不倫をしているお父さんの娘なので、当事者よりも客観的な視点があるからでしょうね。
また不倫相手の弟もいて、彼の視点も客観的。
演技や演出も普通だったら感情が渦巻くような場面でも非常に論理的で、セリフで感情を説明するという、きわめて冷静な皆さんなのです。
人間って、言葉では冷静を装っても、態度や行動に本心が現れる生き物。
そこがこの映画では、主人公のゆみ子だけは突発的な行動をしたり、涙を流すなどの感情表現があるんですが、その他の人物はそこまで現れないのでリアリティーはなく、どう表現したらいいのか分からないんですが、ありえない状況を楽しむ映画という気がします。
ある意味コメディーともいえるかも。
当時の人々が考える女性の自立っていうのも描かれていて、今よりは女性の立場が弱く、逆に肝っ玉が据わった選択をしていることにも驚かされます。
裕次郎は生まれ持った明るさや軽さがあるので、その雰囲気がこのお話とマッチしていますね。
愛人のいる宇野重吉さんの役は、浮気しそうにないキャラクターだけに新鮮。
某ミルク会社が出てくるんですが、映画公開の前年に社会的事件を起こしていて、この映画はそのイメージを払拭するためだったんでしょうか。
映画的にはほのぼのとしたいいシーンになっています。
入隊時の昭和20(1945)年に広島市で被爆していて、戦後は長い間原爆症で苦しんだそうで、闘病後に日活『女中ッ子』で復帰。
この『乳母車』、『陽のあたる坂道』『若い川の流れ』で石原裕次郎の太陽族とは違う新しい一面を引き出したことで知られています。
ヒューマニズムあふれるあたたかい作風は、自身の戦争体験からくるものかもしれないですね。
田坂監督の他の作品も見てみたい。
ロケ地も美しく、九品仏の浄真寺、行ってみたくなりました。
PS:花屋のシーンで、今人気のビカクシダ(コウモリラン)が売られているのを発見! たぶんお花屋さんでのロケだと思うんですが、この時代にもおしゃれな観葉植物を売っていたんですね。
↓予告編
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