『晩春』(1949年 日本)
能舞台の使い方、絵画のような構図…etc。
再鑑賞でさらに魅力を発見。
今朝の1日1映画は『晩春』(1949年 日本)を鑑賞。
大学教授の周吉は早くに妻に先立たれ、娘の紀子と2人きりで鎌倉に住んでいる。
いまだに独身の紀子を心配する周吉だったが、周吉の妹まさが縁談を勧めても紀子は頑なに受け入れようとしない。
周吉はそんな紀子に、自分も再婚を考えていると告げる…。
昔見たことがあって、泣いた記憶があります。
今回再鑑賞なので、ストーリー以外の部分に目を向けてみました。
まずキャストに関して。
前半の、まばゆいばかりの笑顔の原節子さん。
印象学によると、歯がちゃんと8本(上下で16本)見えるのが最高の笑顔らしいんですが、その笑顔をずーっとしていて、ブロマイドを見ているような美しさ。
笠智衆さんはこの映画では56歳の役なんですが、『東京物語』(1953)の時のおじいさんの役の時とそう変わらないおだやかな雰囲気。
飄々とした、喜怒哀楽を表に出さないミニマム演技が、「きっと心では怒っているに(あるいは泣いているに)違いない」と見ていて想像力が父親の心情を察して補うんですよね。
人間の脳というのはどちらかというといい人を見るといい方に解釈するというのがあるので、そういう意味では観客の想像力に任せる演技をするすごい役者さんだなーと改めて思います。
構成は改めてみると、ハリウッドと同じ。
ですが、すごいと思ったのはMP(ミッドポイント)に出てくる能。
映画の中盤で父娘で能を見に行き、結構長く能のシーンがあるんですが、しばらくして観劇中に悪い方向に事が動きます。
それが、観客が正面を向く普通の舞台ではありえない、観客が舞台の正面と下手側(向かって左側。舞台の真横)から45度の向きで2方向から見るという能舞台でないとできない演出が入っていて、さすがと思わされました。
思わぬ能舞台の使い方に…恐れ入ります。
画として印象的なのは、カメラアングルが正座をした時の目線に合わせた低い位置に三脚を据えた「ローポジション」であることは有名で知っていたんですが、さらに「三分割法」と「奥行きのある画」を徹底して取り入れていることに気づきまして。
全ての画が絵画のような美しい構図にバッチリ決まっているんですよね。
人物の対面に関しても、親和的な場面では人物を内向きに、対立している場面では背中向きに、迷いがある場面では平行に配置して動線を作っていたり。
主人公の父娘の関係性についてはファザコンだとか、いろんな説があるようですが、あんなにやさしいお父さんだとそうなるかもなーと思いました。
個人的には脇役が素晴らしい。
叔母役の杉村春子の、原節子とは対照的なへの字口からポンポンとテンポよく繰り出す何気ないリアルな会話。
友人のアヤも言いたい放題の出戻り娘。
この二人の面白い会話だけで私はおなか一杯で、ごはんが何杯もイケます。
一本松や木の捨てカット、看板、海の波…。
モノにも表情があるように見えてきます。
ちょっと残念なのは古いフィルムだけに音の劣化が…。
ボリュームが大きくなったり小さくなったり、聞こえずらいところがあるので、そこを修正するとさらに見やすくなるかもと思いました。
やはり巨匠には学ぶ点が多いですね。
ありがとうございます。
↓予告編
Late Spring (1949) - Trailer from CINEMAtech Film Series on Vimeo.