カトリーヌの「朝1日1映画」

朝の時間を有意義に♪

『ムーンライト』(2016年 アメリカ)

By https://a24films.com/films/moonlight/, Fair use, Link

子供時代→青年期→初期の成人期の“疎外感”を
圧倒的な映像美と情緒的な音楽でつづる。

今朝の1日1映画は『ムーンライト』(2016年 アメリカ)を鑑賞。

名前はシャロン、あだ名はリトル。

内気な性格で、学校では“オカマ"と呼ばれ、いじめっ子たちから標的にされる日々。

その言葉の意味すらわからないシャロンにとって、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった…。

マイアミを舞台に自分の居場所とアイデンティティを模索する少年の成長を、少年期、ティーンエイジャー期、成人期の3つの時代構成で描き、第89回アカデミー賞で作品賞ほか、脚色賞、助演男優賞の3部門を受賞したヒューマンドラマです。

ずっと見たくて気になってた映画でしたが、やっと鑑賞。

いやー、余韻がすごいですね。

自分探しに悩む男の子が主人公。

黒人の社会の中で、どの場所のどの職業に所属して、どう生きていけばいいのか。
「黒人としての男らしさ」とは。

この男の子の言葉にならない心の機微を、彼の視線や行動、目に映る物で繊細に表現してあります。

そういう意味で非常に内面的で、個人的で、私的で、静的な世界観を持った美しい映画。

黒人を題材とした映画でいうと、スパイク・リー監督の、歴史や政治に抑圧された鬱屈とした気持ちを「外的」なパワーとして暴力的に描いていく「動的」な映画とは真逆の映画です。

技術的に印象的なのは「被写界深度」と「色彩」。

被写界深度」は、フレーム内で人物や物が鮮明に見える領域の寸法のこと。

この映画では、主人公を映すときに被写界深度を浅く設定してあり、フレームの中心にはピントが合ってるんですが、周りはぼやけさせてあります。

親や学校などからの疎外感を感じている主人公。

彼の顔や体のみピントを合わせて、周りをぼやかすことにより、疎外感を演出しています。

「色彩」に関してはドキュメンタリー風のリアルな色彩にならないように、ARRI ALEXAで肌の色をよりよく映し、色彩を保ちながらコントラストと彩度を高めるカラーグレーディングを作成。

さらにフィルムは、3章からなる構成において、第1章の子供時代では肌のトーンを綺麗に見せる富士フィルムを、第2章の青年時代ではシアンを追加したアグファを、第3章の初期の成年期にはコダックを使用と、細部までめちゃくちゃこだわっています。

顔のアップが多いんですが、非常に綺麗で見とれてしまうのはそのせいなのかも。

そのほか、「水(海)」を主人公が自己を開放するような場面に使ってあることや、カメラのレンズに強い光が入るときに起こる「フレア」や「ゴースト」、ガラス越しに撮っているような「映り込み」を画面にわざといれてあるのも印象的です。

この映画の世界観、何かに似ているとも思ったら、ウォン・カーワイ監督の『ブエノスアイレス』(挿入曲も同じ「ククルクク・パロマ」by カエターノ・ヴェローゾを使用)。

調べてみると、監督のバリー・ジェンキンスは、ウォン・カーウァイが大好きとのこと!

かなりの影響を受けているのかもですね。

先日観たバリー・ジェンキンス監督の『ビール・ストリートの恋人たち 』(2018)では主人公にモノローグのようなナレーションが多用され、これもウォン・カーウァイ監督の『欲望の翼』を彷彿とさせます。

美術として部屋にもアジアっぽい食器や掛物があり、描き方が内面的であることも含めて、アジア的な世界観があるんですよね。

何かしっくりくるのはそのせいかもしれないです。

アメリカのエンターテインメントな映画とは違う角度を持った映画です。

↓予告編

 
 

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