カトリーヌの「朝1日1映画」

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『ベイビー・ブローカー』(2022 韓国)是枝裕和監督 ティーチイン付き上映

見終わってからじわじわ続く余韻。
感情のスイッチが「カチン」と音を立てる瞬間を味わう。

今日の1日1映画は、昨日行ってきた『ベイビー・ブローカー』(2022 韓国)是枝裕和監督 ティーチイン付き上映について感想を。

あらすじ:ある晩、若い女性ソヨン(イ・ジウン)が赤ちゃんポストに赤ん坊を預ける。
クリーニング店を営む借金まみれのサンヒョン(ソン・ガンホ)と、「赤ちゃんポスト」がある施設に勤務するドンス(カン・ドンウォン)の裏の顔はベイビー・ブローカーだった。
二人がソヨンの赤ちゃんを連れ去った後、翌日考え直して戻って来たソヨンが赤ん坊がいないことに気づき警察に届けようとしたため、サンヒョンとドンスは自分たちのことを彼女に告白し…。(Yhaoo 映画より)

万引き家族』などの是枝裕和が監督などを務め、韓国の製作陣や俳優らと長年構想を練ってきたオリジナル企画を映画化したヒューマンドラマです。

見る前の情報としては、2か月前くらいにこのベストキャスティングで是枝監督が!と興奮気味に知り、6/5に先に公開されている韓国での評判を見た上で今回映画を見ました。

(この先は、特にQ&Aにおいてストーリーのネタバレが含まれている可能性が大いにありますので、観に行く予定がある方はご注意ください)

この映画は中盤からじわじわくる映画ですね。

電車で例えると、ローカル線で雨の中暗いトンネルをゆっくり走る感じが中盤まで続き、中盤からトンネルを抜けて雲や霧の隙間から光がうっすら差し込んできて、しばらくしたらその光がピンポイントに乗客一人一人の心に差し込んで、それぞれが心を揺さぶられる感動を覚える感じ?(例えが変かもですが)。

映画の最初あたりで「つかみ」となるようなものは特にない。

見た目でインパクトのある画やセリフ、激しさを伴う行動がなく、点在する淡々としたエピソードや暗い画が続き、ちょっともやもやしてしまう。

鑑賞者と登場人物の一部が秘密を共有するなど(バレたらヤバイみたいな。『万引き家族』でいえば、冒頭の万引きをするシーンなど)、物理的に鑑賞者をドキドキどきさせる心拍数を上げるような仕掛けがないというか。

そこを突破できれば、中盤からはストーリーが動き出し、点が線となり、登場人物たちが緩やかに変化していき、場面の空気感がガラっと変わりスイッチが入ったように感動を呼び起こし、それがじわじわと続くという。

見終わってからの余韻が、この映画の魅力なんですよね。

鑑賞者各個人の心の引き出しがバンバン開かれ、会場からはすすり泣く声が各所から聞こえていました。

映画が終わってから是枝裕和監督が登壇。

会場からの質問に監督が答えるQ&Aです。

私にとっての是枝監督とのQ&A体験は、監督の初監督作品『幻の光』(1995)の際の湯布院映画祭で見たシンポジウム以来。

あの時はまだドキュメンタリーを手掛けていて「テレビマンユニオンの是枝です」と挨拶なさっていて、駆け出しの監督ではありましたが、人間の感情や思考とは裏腹に訪れる、時間がもたらす物理的な変化を皮肉的に描かれている部分に非常に感銘を受けたのを覚えています。

今や世界が注目する大監督になられて、こうしてまた目の前にするのは感慨深い。

Q&Aの内容の中から主なものをざっと覚えている範囲で書きますね。

Q:子供を男の子にした理由は?

A:ドンス(カン・ドンウォン)も置き去りにされて育った子なので、彼を置いていった母親とソヨン(イ・ジウン)を重ね合わせて考えることができる。この疑似家族を通して起こる変化を描きたかった。

Q:キャストの中で思い入れのある人物は?

A:キャストに合わせて脚本を書いているわけではない。冒頭のスジンペ・ドゥナ)の「捨てるなら産むなよ」というセリフや彼女の赤ちゃんへの接し方と、ラストシーンでの子供への接し方にに見る考えの変化を描きたかった。彼女が年数の重みをどう感じているかを、説得力があり、着地点をどう納得できるものにするかを考えた。旅の途中で入ってくる、少年が車内から現れるシーン。そこから映画の空気が変わる。洗車のシーンは、昔僕の家は自家用車を持っていなくて、バスや電車を利用していた時、友人の家の自家用車に乗せてもらい、洗車に行った記憶が強烈にある。あの時に窓を開けていたら…という「夢」をこの映画で叶えている。そのシーンは自分を重ね合わせている。

Q:「監督が生まれてきてありがとう」と思った瞬間は?

A:韓国でベイビーボックスに預けられた過去を持つ20歳男の子とリモートで話をしたことがある。「母親が自分を産んだことによって、犠牲になったのではないか、悩みを抱えて生きてきたのではないか」と言われた。それに対して「社会全体でその悩みを救えるようになれば。そうすべきだ」と答えた。
悪者探しをしない。物語が進んで行くうちに父親の存在が表れてくるようになっている。(すみません、質問と答えが合ってないのはきっと聞き逃しがあります)

Q:この作品でソン・ガンホカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したが、真の主役はぺ・ドゥナだと感じる。誰かが死ぬことで疑似家族が崩壊するというのがこの作品ではなかった。監督作品にはよくモノレールが出てくるが、この作品にも出てくるのは意図があるのか?

A:結果的にソン・ガンホが受賞したのは良かったと思っている。映画祭で受賞する場合、だいたいが重い作品。この作品のソン・ガンホは軽さがいい。そういう役で受賞したのはうれしい。撮影中は彼がチームリーダーであり、完成最終日まで一緒に話し合って作っていった。モノレールはたまたま。モノレールは、下から見上げるという動作が好き(そのほか過去作品の撮影に関するオフレコ話も)。

Q:韓国のベイビーボックスの実態は?

A:ベイビーボックスに預けられる子供の数は、韓国の方が日本より圧倒的に多く、日本の10倍。さまざまな理由がある。

Q:スジンペ・ドゥナ)が窓についた花びらを取るシーンが印象的。小さな命を大切にしたいという思いを感じ取った。あれは監督の演出なのか、それともペ・ドゥナさんのアドリブなのか?

A:僕が脚本に書いた。どういう動きにするかは完全にペ・ドゥナさんが考えて演じている。台本はソウル以降のシーンは撮影しながら決めていった。コロナの影響で撮影できるシーンが変わり、臨機応変に対応する必要があった。サンヒョン(ソン・ガンホ)は、当初の台本では死ぬはずだった。撮っていくうち、「あ、この人は死なないな」と思い、死なない人物に変えていった。

Q:監督の何かのインタビューで「解像度が上がった」と目にした。その意味は? 世界的に活躍する韓国の役者さんについて。今後の展開は? 大谷翔平選手のように活躍してほしい。

A:ここ数年フランスや韓国のキャスト・スタッフと仕事をしているうちに、言葉以外のことを拾うことができるようになり、見えないものも見えている実感が持てるようになってきた。日本の役者は日本の役者にしかできないものがあり素晴らしいと思っている。日本映画は日本の中だけで展開していて閉じている。作っている側の問題もある。韓国は海外のマーケットも取り入れたモノづくりをしていて、比較するのも恥ずかしい。お金の掛け方が桁外れに違う。韓国の役者さんはすごく訓練されている。演技の勉強もされている。ハリウッドもそうである。しかし、日本は例えばリリー・フランキーのような、演技の勉強をしていない役者ならではの面白さがあり、画になる。以前スピルバーグに「あの人は誰だ?」と聞かれ、「イラストレーターです」と答えた(笑)。こういう役者の起用は日本以外では起きにくい。役者も組合に入っており厳しさもある。独特の面白さが日本映画にはある。監督も訓練を積んでいない。そこをどういうふうに活かしていくかが課題。今後はじゃ、僕も「二刀流」で(笑)。

Q:人には許したいし許されたいという面がある印象だが、この映画に出てくる「ゆるす」というセリフについて、監督自身が「ゆるす」ということが何かあったか。

A:(難しい質問に考えながら)受け入れるということ。僕は38歳の時に急に父親が亡くなった。仲が悪く、亡くなるまで5年くらいは口をきいていなかった。しかし、自分が父親になってから、あの時父親がこういうことを考えていたのかもしれないと思うようになってきた。10年経ってやっと受け入れるようになってきたが、自分が親になることは、自分の父親を受け入れることになる。死んで分かれるのではなく、そこから分かりあう関係もある。

以上、ざっくりと書きました。

映画を見終わった直後のQ&Aということで、深い内容の質問が多く、泣きながら質問している人もあり、皆さん監督に感情のスイッチを押された雰囲気に包まれていて、私も質問したかったんですが、ちょっとそういう気持ちにはなれず。

家族や身内を大事にする韓国において、疑似家族を描いたこの映画を見た人々がどういう反応を示すのか、それについての思いみたいなところが聞いてみたかったのはあります。

個人的には『この世界の片隅に』的な雰囲気もあるなぁと感じました。

いろんなお話が聞けてよかったです。

 

↑音楽のピアノ曲も素敵。

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