『侠女』(1971年 台湾・香港合作)
By A Touch of Zen, a production of Union Film. - Fair use, Link
縦移動のワイヤーアクションはこの映画から始まった!
ただのアクション映画ではない東洋的な深さ。
今朝の1日1映画は『侠女』(1971年 台湾・香港合作)を鑑賞。
舞台は明王朝時代の山村。
若き絵描きのグーは、幽霊が出ると言われている廃墟の砦の近くで母と慎ましやかな暮らしを営んでいた。
ある日、向いの家にヤンという若い女性が引っ越してくる。
彼女には、腐敗した政府関係者に殺された父の復讐をするという決意があった。
グーは彼女を取り巻く激しい闘いに巻き込まれていき…。
フランス映画祭高等技術委員会のグランプリを受賞したアクション大作です。
3時間の大作を見終わって、すごいものを見ちゃった感がしています。
まず前半は人間ドラマ中心。
絵師の男性が、依頼された絵を通して政府側(悪役)&反政府側(善人役)のどちらともつながりができて、それぞれに巻き込まれていく様が結構面くて、そこに恋愛的な要素も加わって、シナリオとしてよくできているなーと。
カット割りもすごくバリエーションがあって、目元をアップにした目線の演技をたくさん取り入れていて緊張感を出しています。
それが後半になって、敵が次々とやってくるんですが、殺陣がすごい!
まず動きの速さ。
男性はもちろん、天女みたいな出で立ちの女性剣士(シュー・フォン)が鋼のような剣をビュンビュン振りかざして素早く立ち回るんですが、素人目で見てもすごく上手いんですよね。
縦方向に飛び上がったり回転したりする「縦のワイヤーアクション」を初めて取り入れたのがこの映画のキン・フー監督で、今時の超人的な動きというよりは結構ナチュラルなので違和感はそんなにない。
カットとカットの間には、走っているバックにシュシュシューと流れる高速移動のようなカットや回転トランジション的なカットも入れ込んであってモンタージュを上手く使っている印象。
ロケーションは荒廃した町、広大な岩山、竹藪、森林など、絶景ばかり。
香港から台湾に飛び撮影したそうなんですが、キン・フー監督はまるごと町のセットを作り、風化した外観を作るためにそのまま9か月間ほったらかしにしてわざと荒廃させたそう。
やることの規模が違います。
光と影も効果的で、怪しい人影、事件が起こる前の稲妻の光、太陽のフレア、逆光でキラキラするススキの穂、木の葉、水辺、滝など、非常に効果的で美しい。
で、この映画、見進めていくと、「あれ?」という感じがあるんです。
話がなんだかねじれている。
いわゆる欧米や日本の普通の映画を見慣れていたら、まずあまりないような方向に話が展開していきます。
何のために戦っているのか、その答えが普段の私たちの日常とは違う方向にあるというか…。
「え、途中からあのメインキャラの人がいないんだけど…」とか、「主人公の成長じゃなくて、脇役の成長物語? それもそっちの方向に?」みたいな。
一見納まりの悪いトリッキーな展開で、自主映画だったらこういう展開あるなと思いながら見たんですが、自分なりに答えが出ました。
東アジア的展開なのだと。
それも仏教や道教、武道などの哲学的、悟り的展開。
各キャストの衣装の色(五正色)から、キャストの行動、神秘的なモチーフなど、それらすべてに東洋ならではの意味がある気がする。
そういう見方をすると、この展開も納得でき、かなり深い映画だなと思います。
また、女性剣士は、欧米映画に出てくるフェミニズム的に強い女性だけでなく、アジア的な家系を守る母性としての女性もしっかり描いてある。
映画の描き方には、正解がたくさんあるということを改めて思い知らされました。
PS:18歳ぐらいの時のサモ・ハン・キンポーが敵役で、子供時代のジャッキー・チェンがスタントで出演しています。
↓予告編