『影武者』(1980年 日本・アメリカ合作)
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絵画や舞台のように楽しめる
カンヌ国際映画祭グランプリの黒澤映画
今朝の1日1映画は『影武者』(1980年 日本・アメリカ合作)を鑑賞。
戦国時代。家康の野田城攻めの折り、鉄砲で撃たれこの世を去った武田信玄。
弟信廉は信玄死すの報を打ち消すため信玄の影武者を立てる。
男は盗みの罪から処刑されるところを信玄と瓜二つだったことから助けられたのだった。
だが男にとって戦国の雄・信玄として生きることはあまりにも過酷だった……。
カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した、巨匠・黒澤明監督が手がけた戦国スペクタクル巨編です。
3時間の大作ですが、なんだか舞台を見終わった後の感じがしています。
物語の構図は、小泥棒が戦国武将の影武者に…という小市民が権力を手に入れる図式で、アメリカ映画だと大統領の影武者の話の「デーヴ」(1993)に近い。
体制側を小市民が指揮するその様子は痛快でもあります。
そこに、それが面白くない権力側、そして南蛮渡来の最新武器を持った強敵がやってくる。
結局影武者は影武者にしかすぎない…。
人間のもろさ、一人の人間の悲しさみたいなものを武田信玄役とその影武者役の2役で仲代達矢さんが演じています。
歴史が分からなくてもセリフで結構どういう人物であるかを説明してくれるので、非常に分かりやすく、スッとお話の世界に入れますね。
全体的な印象は、静と動、緩急、感情の喜怒哀楽とともに、雨・風・雪・砂埃などのあらゆる天候を入れ込んであって、一見ドラマティック。
ですが、そこまで感情移入させない演出っていうんでしょうか。
カメラが俳優と一定の距離を保ち、俯瞰的に見せる構図があって、絵画や舞台を見ているような感覚があるんですよね。
5,000人の騎馬隊がものすごい足音、掛け声とともに行きかいながら戦う圧倒的な全景を見せたのち、それらの部分部分のミドルショットで兵士と馬の惨状を浮かび上がらせる。
細かいカット割りや人間の感情を盛り上げる音楽によって観客を主人公に共感させ一緒に一喜一憂する抒情的な映画というよりは、映っている全体像から観客が面白いと思うものを見つけて主体的に楽しむような映画となっています。
戦いの様子が見どころですが、日本刀を使うシーンはほぼなく、槍を持った騎馬隊VS火縄銃軍団。
銃撃戦なので、西洋の戦争映画を見ているよう。
フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカスが外国版プロデューサーとして参加しているので、そのあたりも意識されているのかもしれません。
夕日のシーンが本当に美しく、ゴールデンアワーの映画ともいえるかも。
衣装の配色も美的センスを感じます。
当初、勝新太郎主演の予定が、黒澤監督と演出論の違いにより降板。
俳優自身が演技を演出したい勝新太郎と、監督が演技を演出したいという黒澤監督側の相違によるもの。
映画を観た勝さんは「(映画は)面白くなかった」「おれが出ていれば面白かったはずだ」とコメントしたそう。
勝さんはきっとカンヌで賞を取るような芸術的な映画ではなく、面白い映画が撮りたかったんでしょうね。
その気持ちもすんごい分かります。
戦国武将の生き様とともに、圧倒的なこだわりの画づくりからいろんな想像力が働く不思議な映画ですね。
↓予告編