『東海道四谷怪談』(1959年 日本)
撮影監督は後に『ドラゴンへの道』など香港映画界で活躍。
こだわりの映像美に酔いしれる。
今朝の1日1映画は『東海道四谷怪談』(1959年 日本)を鑑賞。
民谷伊右衛門(天知茂)は、仲を裂こうとする恋人・岩(若杉嘉津子)の父親を秘密裏に殺し、彼女と共に江戸へ逃げた。
その後、伊藤家の一人娘を助けたことから、伊右衛門に婿入りの話が出て、たちまち彼は岩を疎んじ始める。
伊右衛門は薬と称して、岩に毒薬を飲ませるが……。
怪談映画の名手、中川信夫監督による数ある「四谷怪談」の中の“最高峰”と言われる作品です。
お話は文楽などで知っているんですが、映画としてちゃんと見たのは初めてかも。
誰もが知っているこの作品ですが、いやー、この映画は魅せますねぇ。
まず、撮影のアングルの多様さ。
全景ショットによる俯瞰、ハイ&ロー、ミドル&アップなど効果的に切り替わり、1枚の画として美しく、印象に残ります。
冒頭ではワンシーンワンカットでクレーンが上→下→直角に曲がって横移動、みたいな自在に動くシーンがあって、今までちょっと見たことがない動き。
調べてみたら、通常のクレーン撮影では実現不可能なため、このシーンのために専用の機械が新たに開発されたそう。
すごいこだわりですよね。
あと、カメラと人物の間に何かをかませるショット。
格子戸越し、蚊帳越し、仏像越しなど、「~越し」のショットが多く、覗き見ているような怪しい雰囲気があって怪談におけるドキドキ感も高まります。
この芸術的な画を作った撮影監督は西本正。
のちに香港に渡り、香港映画界で活躍。
第15回カンヌ国際映画祭で『楊貴妃』フランス高等映画技術委員会色彩撮影賞を受賞。
ブルース・リー主演の『ドラゴンへの道』『死亡遊戯』 、マイケル・ホイ監督の『Mr.Boo!ギャンブル大将』など、香港では13年間に47本の撮影を手掛けていて、海外でもこの西本撮影監督が評価される理由が分かります。
照明は後半にピンスポットのようなライトが使用され、主人公が自らの過ちの渦に巻き込まれどんどん内的世界に入っていく様子を主観的に描いてある。
このあたり、先日見た『大菩薩峠』のような人間の「業」を見事に表現してあります。
お岩のメイクや幽霊のメイクも非常にリアルで、不気味な照明も相まって本当に怖い。
昨今のCGを多用したホラー映画と比較すると、知恵と工夫、美的センスと鬱屈した人間の内面を表すような「湿度」まで詰まっていて、スタッフの情熱の伝わり度が半端ないです。
それにしても主演の天地茂さん、欲のために犯してしまった業にさいなまれ苦悩する役どころがピッタリですね。
目力(めぢから)と眉間のしわによる後悔の念を感じさせる表情は、なかなか他の俳優ではできない気がします。
ただ怖いのではなく、そこには理由がある。
日本の怪談には悲しい物語があって深いですねぇ。。
↓予告編