『女の一生』(1953年 日本)
元祖カメレオン女優ともいえる乙羽信子さんの変身ぶりに魅了
今日の1日1映画は『女の一生』(1953年 日本)を鑑賞。
都の寺から老舗の牛肉屋に嫁いだ藤子。
やがて藤子は夫の浮気に悩まされるが、女将として店を守り、戦争の時代を乗り切っていく…。
ギィ・ド・モーパッサンの名作文学『女の一生』を、舞台をノルマンディーから京都に変更し、新藤兼人が脚色・監督し映画化した作品です。
今年40周年を迎える広島市映像文化ライブラリーでは、記念特集として4~6月に「生誕110年 新藤兼人特集」を開催。
その上映会に行ってきました。
客席はコロナ対策で半数84席となっていますが、ほぼ満席。
皆さんの地元出身の監督作品を改めて見てみたいという注目度の高さが分かります。
主演は乙羽信子(当時26歳)。
セーラー服でキャッキャッ言っている娘時代から、店を仕切る初老の母親まで、女の半生を1人で熱演しています。
乙羽さん、本当にその年齢に見えるくらいの変化の仕方。
カメレオン女優と言ってもいいくらい。
見た目だけでなく、その立ち振る舞いだとか声の出し方とかの変化の幅が広いんです。
主人公・藤子には悲劇が次々と起こるんですが、それらに対して、その年相応の対処の仕方をする演技が、非常に説得力があるんよね。
女優としてレベルの高い方なんだなと改めて思います。
新藤監督作品はこれまで数作品見てきてはいるんですが、そこまで研究しているわけではなく、こういうタイプの監督さんと一言では言えないんですが、この作品はめちゃくちゃ展開が早い。
間がなく、ポンポン場面も進む。
しかも、ラストにまだ続きがありそうな形で途中で終わっている雰囲気。
そういう作風の監督なのかなと思いきや、調べてみると今回見たのは短縮版の70分で、本当は126分の作品らしいんです。
でも現存するのはこの短縮版だけのようで。
約半分も削っているわけだから、展開が早いと思いました。
短縮版を見る限りでは、カメラワークは溝口健二監督ばりにクレーンを多用し、アングルも様々で切り返しもたくさんあり、感情に沿った音楽もある。
小道具はヒッチコックのように巧に使い、効果音を劇的にインサートする。
感情の喜怒哀楽の緩急もあって、非情にドラマティックな展開です。
ただ、フィルムの劣化からか、早口だったりボリュームが小さくなったりして、何を言っているのか聞き取れない所も。
日本語字幕があったらいいのにと思う場面もありました。
それにしても、昨日見た増村保造監督に近い、人間に対するまなざしの熱量の高さを感じます。
この機会に、映像文化ライブラリーで新藤作品を見ていきたいです。