『心中天網島』(1969年 日本)
「あんたを愛しいと思ったら、どんなことでもできるんと違いますか」(映画より)
文楽の世界観をアバンギャルドな手法で魅せる名作
今朝の1日1映画は『心中天網島』(1969年 日本)を鑑賞。
紙屋治兵衛(中村吉右衛門)は女房おさん(岩下志麻)と子供のある身でありながら、遊女小春(岩下志麻※2役)と深く馴染んでいた。
ついには妻子を捨て小春と情死しようかという治兵衛の入れ込みように、兄・孫右衛門(滝田裕介)はこれを放っておくことができなかった…。
近松門左衛門の同名原作を斬新な演出で映画化した篠田正浩監督初期の傑作。
詩人の富岡多恵子、音楽家の武満徹が共同脚本に当たっています。
今夜、人形浄瑠璃 文楽を見に行くので、その世界観を予習も兼ねて見てみました。
文楽の演目は大きく分けて歴史的事件を描く「時代物」と庶民の生活や風俗を描いた「世話物」があり、この作品は「世話物」の方。
男女の許されない恋のお話です。
先日見た『曽根崎心中』と同じパターン。
あっちはものすごい熱量を持って死に向かう二人が描かれていて、この映画もそのベクトルは変わらないんですが、周りにわらわらと黒子がいる…。
しかも黒子が“黒幕”みたいな存在感を醸し出す。
前衛書道家で監督の従姉・篠田桃紅による絵がにぎやかにし、黒子や遊女をアングラ演劇の天井桟敷の面々が演じる。
江戸の街を舞台にした前衛演劇を見ているような雰囲気です。
だけど、セリフは超絶分かりやすい。
難解な作風を難解なまま落とし込むのではなくて、分かりやすさを加味することで「斬新だけどとっつきやすいよね」という、エンターテインメントに押し上げられている。
私はこれを個人的に「コンドルズの法則」と呼んでいます。
難解&前衛的な「コンテンポラリーダンス」ですが、誰もが知っているアイテム「学ラン」を組み合わせると、新しいけど懐かしい、とっつきやすいものが出来上がるという。
この年のキネマ旬報ベストテン第1位や毎日映画コンクール日本映画大賞など、多くの賞を受賞したのもうなづけます。
治兵衛の女房おさんと、浮気相手の遊女小春を岩下志麻が1人2役で演じていて(メイクがあまりにも違っていて私は気づかなかったんですが…)、立場としては反対ではありますが、どちらも治兵衛という1人の男を愛する気持ちには変わらないという女ごころが痛いほど分かりまして。
女の性(さが)がよく描かれた作品ですね。
息が白くて(寒空のロケ)、追い詰められた感があっていいですよね。
当時25歳の中村吉右衛門さん、28歳の岩下志麻さんのおくれ毛や乱れ髪が艶っぽい濡れ場シーンもモノクロ映画ならではの官能が。
この雰囲気のまま、今夜見る文楽の舞台の楽しめそうです。
PS:先ほど舞台を見てまいりました。生の迫力あるお囃子、雰囲気があっていいですね。太夫の振り絞るような感情による語りや1体の人形を3人掛かりで動かす人形遣いによる繊細な人形の動きはもちろん素晴らしいんですが、太夫が床本(台本)を置く「見台(けんだい)」に見とれてしまって。漆塗りに松と鶴の蒔絵が施してあって、見ていてうっとり。工芸品として素晴らしいです。
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