『心』(1973年 日本)
画像:リンクより
夏目漱石の名作を新藤兼人が設定を置き換え映画化
静かな凄みを見せる乙羽さんの存在感
今朝の1日1映画は『心』(1973年 日本)を鑑賞。
物語の主人公、二十歳のK(松橋登)は、東京・本郷に下宿先が決まった。
そこには夫を戦争で失ったM夫人(乙羽信子)と、その娘で若くて美しいアイ子(杏梨)がいる。
親友S(辻萬長)がKの隣部屋に同居することに。
ある日SはKに自分がアイ子を愛してしまったことを告白。
まだアイ子には告白していないというSの言葉にほっとするK。
Kは二人きりになった夫人に"お嬢さんをわたしに下さい"と切り出すが…。
二人の学生と一人の娘をめぐる愛の葛藤にスポットをあて、生命の根源としての「裏切り」と「性」を凝視する巨匠、新藤兼人監督が明治の文豪夏目漱石「こころ」の映画化した作品です。
原作の小説は、大人になってから面白い!と夢中で読んだ記憶が。
でも内容を忘れてしまっているので(笑)、まっさらな気持ちで見ました。
この映画が公開されたのが、1973年。
原作は明治末期ですが、この映画は学生運動が盛んな1970年代初頭に設定されていて、恋愛などの私的背景だけでなく、社会背景的として当時の若者のエネルギーが抑圧されている様子がセリフや行動にも取り入れられているのが特徴。
自分の気持ちを優先するのか、友人の気持ちを尊重するかという、エゴイズムと倫理感との間で揺れ動く主人公のナレーションとともに進みます。
蓼科山のエピソードは、命がけの自分試しの修行のようですが、そのエネルギーの方向が、社会や他者へ向かうのではなく、自身へ向かっていくのが何とも切ない。
主人公を演じるのは、松橋登さんで劇団四季出身の方。
見始めて最初は発声の仕方が舞台っぽいなと思いましたが、見進めると表情が細やかで、哀愁のあるトランペットの音楽も相まってだんだん映画の世界に引き込まれてしまいます。
全編的にアップショットが多いんですが、下宿先のM夫人役、乙羽信子さんのアップがすごい存在を放っていて。
予言めいたことを言ったり、場の空気を読んで立ち去ったり現れたりする行動は、あおり照明も含めてホラーチックではあるんですが、悪いことが起こったときに「ほれ、あの時言ったではないですか」と言わんばかりの表情で物事を冷静かつ俯瞰的に見つめるあの表情が忘れられない…。
新藤監督は、乙羽さんのこの表情を撮りたかったんだろうなということが良く分かるんですよねぇ。
そんな“監督の心模様”までもが見えてくる作品です。
(スチル写真は白黒ですが、映画はカラー作品です)
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