カトリーヌの「朝1日1映画」

朝の時間を有意義に♪

『赤ひげ』(1965年 日本)

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「あらゆる病気に対して治療法などない。(中略)貧困と無知さえなんとかできれば、病気の大半は起こらずに済むんだ」(映画より)

今朝の1日1映画は『赤ひげ』(1965年 日本)を鑑賞。

長崎で医学を学んだ青年・保本(加山雄三)は、医師見習いとして小石川養生所に住み込む。

養生所の貧乏臭さやひげを生やした無骨な所長・赤ひげ(三船敏郎)に反発する保本は、養生所の禁を犯して破門されることすら望んでいた。

しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさに触れ、また彼を頼る貧乏人に黙々と治療を施すその姿に次第に心を動かされていき…。

山本周五郎の「赤ひげ診療譚」が原作。

江戸時代の小石川養生所を舞台に、そこを訪れる庶民の人生模様と通称赤ひげと呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描いた、三船敏郎ヴェネチア映画祭男優賞を受賞した黒澤明監督による人間ドラマです。

いやー、面白い。

約3時間あって、殺陣などは1か所ぐらいでほとんど会話なのにぜんぜん飽きない。

しかもウルっとくる。

これは黒澤監督の、カメラのフレームに映りこんでいる&聞こえている&存在するすべての要素に気を配ってあるからこそなせる業なんだろうなと見ながらしみじみ思います。

まず、脚本。

話としては師匠と相反する弟子という主軸があって、そこにさまざまな事情を抱えた患者のエピソードが連なる、いわゆる医療ドラマ的展開があります。

キャラクターとしては、赤ひげ先生は普段はブスっとしていて愛想は悪いんですが、確実な腕前と、肝心な時には弁も立つ。

出ました、「ギャップ」ですよね、人物を魅力的に見せる要素。

そこに保本も我々鑑賞者もだんだん信頼や魅力を感じていくという。

主人公は赤ひげ(三船敏郎)とのことなんですが、映画を通して心の動きが大きいのは保本(加山雄三)の方。

赤ひげの活躍はあくまでお手本で、保本に対しては指南者として存在し、この映画のテーマとなっているのが分かります。

赤ひげが言う印象に残るセリフに「あらゆる病気に対して治療法などない。(中略)貧困と無知さえなんとかできれば、病気の大半は起こらずに済むんだ。いや、病気の陰には、いつも人間の恐ろしい不幸が隠れている。」というのがありまして。

過去に受けた心の傷やトラウマから病気になっている人々のエピソードがいろいろ出てくる。

手術や薬を処方する前に、もっと大切な「人の心を治す」ことに焦点を当てた治療をやっていて、それらが有効であり一番難しいというのも描かれていて、それは現代でも同じだなと実感すると同時に、見終わったときには赤ひげ先生に絶大な信頼を置いてしまうんですよね。

それから、演技。

すみません、三船敏郎加山雄三の演技をすっ飛ばしちゃっていいですか?

もうねー、それくらい、子役がうますぎ。

全部魂を持っていかれちゃうぐらい。

後半に出てくるおとよ(二木てるみ)と長次(頭師佳孝)の演技がずば抜けすぎていて。

虐げられた子供たちの健気なエピソードを盛り立てる演出はもちろんなんですが、間(ま)とか目線の動き、息遣いまで細かい演技が積み重なっていて本当に見入ってしまいます。

子役の演技にほんと涙。

また、養生所で働くまかないのおばさん役の1人に、今月1日に亡くなった野村昭子さんが出ていて、彼女が画面に映ると、コミカルさとパッとした明るさが出て、脇役とはいえどすごく印象に残ります。

娼家「櫻屋」の女主人役の杉村春子さんの意地悪な演技も、ほんとに嫌な感じが出ていてリアル(うまいからこそできる演技)。

巨大セットを作らせたという昔の医療所の様子も事細かに分かって勉強になります。

技法で印象的なのは、影(シルエット)。

この時代カラー映画がすでに普通の時代になっているんですが、わざと白黒で撮って人物の影を際立たせているんですよね。

そのことによって、ミステリアスな雰囲気が醸し出されていて、登場人物の事情や背景により一層興味がわき、どうなるんだろう?という推進力にもなっている気がします。

また6分~10分の長回しの長ゼリフという舞台を見ているかのようなシーンが何か所があるんですが、役者にとっては大変ですが、見ていて感情がリアルタイムで沸き起こるのが分かるのと、カメラのフレームの中でどう人物を動かして動きのあるカットにするかというのが練られていて。

長いシーンを飽きずに興味を持ち続けたまま見せるコツというのでしょうか、そういう役者の動線や動作が練られているのにも驚きです。

その他、テンポのあるスライドドランジション、美しい構図の三分割法、天候(砂埃、地震、どしゃぶりの雨、雪)を心情やエピソードの中に入れる、揺れるカメラ(ふらつく酔っ払いのシーン、心の揺れの隠喩)、高所での告白(緊張感)、風の音や犬の威嚇の吠え方で危険人物を察知など、細かい演出によってその状況を最高値まで持ち上げている。

下準備をするスタッフさんも大変だと思うんですが、ただただ敬服です。

貧困と教育と医療を見事に人間ドラマに落とし込んだ傑作。

参院選を前に見るべき1本かもしれないですね。

↓予告編

 
 

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