『乱れる』(1964年 日本)
高峰秀子×加山雄三の義姉弟を
見事な「画」と「動き」で描いた恋愛ドラマ
今朝の1日1映画は『乱れる』(1964年 日本)を鑑賞。
戦時中に森田屋酒店に嫁いだ礼子(高峰秀子)は、子供もなく夫に先立たれた後も森田家を切り盛りしていた。
ある日、夫の弟である幸司(加山雄三)が会社を辞め戻ってきた。
無軌道に暮らす幸司。だが彼は義姉への想いにずっと悩まされていた……。
松山善三・脚本のテレビドラマ『しぐれ』を松山自身が映画用に改稿し、名匠・成瀬巳喜男監督が演出を手がけたメロドラマの秀作です。
今日からまた新たなテキスト本(4冊目)に紹介されていた映画を見ていきたいと思います。
成瀬巳喜男作品は何作か見たことあると思うんですが、これはたぶん初鑑賞。
戦争未亡人の義姉と同じ屋根の下に住む義弟と母。
人間関係としてはそれだけでドキドキもんです。
そこに時代の新しい波、スーパーマーケットがやってくる。
私的関係、社会的関係、時代的背景の3つの要素がすべて良しとしない方向にべクトルが作用していくんですが、これが非常にスリリングに、かつ丁寧に描かれています。
私個人の気づきとしては、主に4点。
1.登場人物の「動線」がスムーズ。
店に尋ねてくる人&店を去る人、出会いがしらに話しかけてくる人&去る人、などの動線が綿密に計算されていて、ものすごくナチュラルで、自然と話の世界に連れていかれます。
2.何かをしながらしゃべる。
これは私が監督した映画でも意識して演出したことなんですが、何かをしながらしゃべると非常にナチュラルな動きになります。
この映画でも、幸司役の加山雄三は、日常のシーンでは食べてたり、バイクに乗ったり、お酒を飲んでたりとほぼ何かをしながら存在しています。
成瀬監督のリアリズムを感じます。
3.「光と影」で人物の心情や距離を強調。
礼子と幸司の緊張感のあるシーンでは、シーン途中でパッと照明が変わり、緊張感がさらにググっと高まります。
4.「高低差」。
ヒッチコックなどのサスペンスでもおなじみですが、感情のクライマックスで主役を非常に高い位置まで上らせます。
このことによって観客の緊張度もマックスになる。
ここまで書いた4点の気づきを改めてみると、すべて視覚的要素で、セリフに対することではないことにさらに気づかされます。
それがこの映画、セリフは本心と裏腹のことを言ってることが多いんです。
特に前半は社会的体裁・世間体がセリフとなり、本心は人物の行動や衣装などで示してある。
心理学的に、嘘を言っても行動でバレるというのがありますが、同じことを成瀬監督は映画表現として行っているんですよね。
さらに、テキスト本では着物が人妻としての「鎧」の意味で使われ、「橋」や「光と影」が、男女の一線を越えるかどうかのメタファー(隠喩)として存在させているとも。
この映画、深読みするとものすごい多くの要素を秘めていると改めて思いました。
昔は戦争未亡人が夫の兄弟と結婚するというのはよくあった話と聞いていましたが、そこはやはり世間体が許さないという一般常識は存在していたんでしょうね。
人妻の世間体と1人の女性としての感情の揺らぎを、細かい表情の変化や動きで見せる成瀬監督って「画」の監督ですね。
大変勉強になります。
PS:若い頃の(この時37歳)高峰秀子さんって、なんとなくとよた真帆さんに似ている気がします。
↓予告編