『ともしび』(2017年 フランス・イタリア・ベルギー合作)
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第74回ベネチア国際映画祭最優秀女優賞受賞。
1人の女性の静かな変化を読み取る。
今朝の1日1映画は『ともしび』(2017年 フランス・イタリア・ベルギー合作)を鑑賞。
ベルギーのある小さな都市で、夫とともに慎ましやかな生活を送っていたアンナ。
夫が犯したある罪により、穏やかだった生活の歯車が少しずつ狂い始めていく。
やがてその狂いは、見逃せないほど大きなものとなっていき……。
ひとりの女性が、もう一度“生きなおし"を図るまでを「まぼろし」「さざなみ」のシャーロット・ランプリングが演じ、2017年・第74回ベネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したドラマです。
セリフはほとんどなく、BGMとしての音楽もなく、非常に緊張感のある雰囲気で、カメラは定点長回しで主人公アンナの表情、行動を捉えます。
夫逮捕の真相や彼女の行動は言葉によってあまり明らかにされないんですが、映し出されるものを見ながら何が起こったのかを想像で紡いでいく感じ。
彼女の行動は、演劇ワークショップみたいなものに参加してで奇声を発して突飛なように見えることもあれば、地下鉄に乗る、プールで泳ぐ、家政婦として働くなどとても日常的な面もあり、その中に「あるある」が詰めこまれていて、いつの間にか彼女と自分を重ね合わせていることに気づきます。
技法の特徴としては、前半は映り込みや鏡を多用して、主人公が何を見ているかが分かる仕掛け。
それが主人公の主観的な世界をクローズアップするとともに、彼女の微妙な表情の変化を捉えることができ、効果的な演出になっています。
この映画の雰囲気は結構好きなタイプなんですが、私が敬愛する台湾の映画監督ツァイ・ミンリャンの映画と似たシーンが出てくるんですよね。
調べてみたら、アンドレア・パラオロ監督はツァイ・ミンリャンの影響を受けているとのこと。
その他ミケランジェロ・アントニオーニ、ルイス・ブニュエル等、多くの監督の影響も。
個人的には『叫びとささやき』のイングマール・ベルイマン監督にも似ている気がします。
主人公アンナを演じるシャーロット・ランプリングの演技がすごくよくて、老いゆく身体をさらけ出して全身で演技していて、心の言葉となっています。
カラーグレーディングも落ち着いた色味で、この色味を出すために、デジタルではなく35mmフィルムで撮影しているそう。
数少ないセリフ、映し出される場面に隠されている多くのメタファー(隠喩)。
それらを一つずつ読み取っていくと、この映画が何倍も面白くなる。
そういうことが好きな方にはぜひおすすめしたい作品です。
↓予告編