カトリーヌの「朝1日1映画」

朝の時間を有意義に♪

『ニーチェの馬』(2011年 ハンガリー)

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第61回ベルリン国際映画祭でW受賞。
静かな映像が醸し出す、父娘の深遠。

今朝の1日1映画は「ニーチェの馬」(2011年 ハンガリー)を鑑賞。

強風が吹き荒れる中、農夫(デルジ・ヤーノシュ)は、馬に荷車を引かせている。

彼の家は見渡す限り何もない場所にぽつんと一本の木が立つ場所にあり、彼は娘(ボーク・エリカ)と二人でつつましい生活を送っていた。

娘は井戸への水くみや、腕が不自由な父の着替えの手伝いなどを淡々とこなしており……。

『倫敦(ロンドン)から来た男』などのハンガリーの異才タル・ベーラが監督を務め、たった二人の父娘の孤独な日々を描いたドラマです。

モノクロ映像で、セリフがほとんどなく、淡々と2人の日常が綴られるこの映画。

カメラは長回しで、音楽は鬱屈とした同じ曲が要所要所で流れます。

劇的ではないので、見る人によっては退屈で、好き嫌いが分かれるでしょう。

私の場合は、そこまで飽きない。

逆に、その映像に映し出された人や動物、物、建物から「何が起きているのか」を読み解いていく作業が楽しくなってきます。

状況音は外の暴風の音以外は本当に静かなので、見ていてそれ以外の音がするとドキっとするし、誰かが訪ねてきたら、何か悪いことが起こるにではないかと不安になり…。

観ながら、ある意味ホラーとかサスペンスの方向に勝手に持っていこうとする自分に気づいてしまって。。

「映画とは往々にして劇的である」という固定概念を見事に崩されます。

ニーチェの馬」というタイトルですが、哲学者ニーチェは出てこないです。

ニーチェの晩年の馬にまつわるエピソードから着想された映画。

淡々とした父と娘の厳しい極貧生活の中に、ニーチェの思想である「ニヒリズム」(物事の意義や価値は存在しない、自分自身の存在を含めてすべてが無価値だと考えること)や、「実存主義」(神を否定し、人間一人一人の存在を大事にし、どう生きるか考えること)を入れ込んで表現してある気がします。

難しいことよりも、毎日茹でたジャガイモしか食べない二人に、それでだけで生きていけるのかとか、その唯一のジャガイモもちょっとしか食べずほとんど残して捨ててしまうのがもったいないとか、そういうことが気になってしまいましたけどね。。

技術的な面だと「トラッキングショット」が印象的。

空間内を移動する人物をカメラが追うことなんですが、人物に活力と動きを与える方法です。

娘が家の玄関から外の30mぐらい先にある井戸に水を汲みに行くシーン。

吹きすさぶ冷たい暴風の中、毎朝2つのバケツを持って汲みに行くんですが、そこで「トラッキングショット」により真後ろから娘をカメラが追います。

そのことによって、鑑賞者である私も、まるでその娘の過酷な作業を共にしているかのような一体感が生まれ、共感できるんですよね。

そういうシーンがたくさんあって、過酷な労働をさせられている馬にまで共感してしまいまして。。

考えていくと競馬って動物虐待なのかな…とかそういう域まで考えてしまう。

何とも、想像力がいろんな方面に派生していく映画です。

↓予告編

 

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