『理由なき反抗』(1956年 アメリカ)
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ジェームズ・ディーンの演技はもちろん、
映画の作りの素晴らしさに脱帽。
今朝の1日1映画は『理由なき反抗』(1956年 アメリカ)を鑑賞。
酔った17歳の少年ジム(ジェームズ・ディーン)が警官に捕まった。
その晩に起こった集団暴行事件の容疑者として警察に連行された彼は、そこで美しいジュディ(ナタリー・ウッド)と、まだ子供のようなプレイトー(サル・ミネオ)と知り合う。
この三人の出会いが、やがて彼らの持つやり場のない苛立ちを露呈する事件へと結びついてゆく……。
ジェームズ・ディーンが「エデンの東」に続いて主演を務めた、ニコラス・レイ監督による名作青春ドラマです。
ジェームズ・ディーン主演作品は『エデンの東』は見たことがあるんですが、これは初鑑賞。
この映画の公開1か月前に自動車事故で24歳の若さで亡くなってしまったジェームズ・ディーン。
伝説になるのが分かるような存在感があります。
役柄的に思春期特有の青年の心の成長を描いてあるんですが、そのナイーブな眼差しは、一度見たら忘れられない表情をしていて。
以前『薄桜記』の市川雷蔵を見て、“雨の日の子犬”を思いましたが、ジェームズ・ディーンも似ていて、瞳の奥にもの悲しさや哀愁があって、心を動かされる。
両者共に複雑な生い立ちがあってその誰にも言わない内面の思いみたいなものが演技にあふれているのではないかと想像します。
この映画を語られる時、ジェームズ・ディーンにスポットライトが当たるのはしょうがないんですが、映画を見ていて、いやいや、この映画、作りもすごいですわ。
オープニングから地面にカメラを置いているぐらいのローアングルで、地面に寝ころんで何か撫でてる青年が映り、その上に真っ赤なタイトル文字が映される。
その文字も斜めの文字を1か所挿入。
「何があったん?」って思わずにはいられない、推進力のあるオープニングです。
そこから展開される主人公たちの行動が気温や小道具を介しながら、Aさん→Bさん、Bさん→Cさんとスムーズにつながっていく。
前半であった登場人物の行動は、後半で再び繰り返され、ある意味伏線の回収のようにイメージとして強く印象付けられます。
また、印象的なのは階段のシーン。
ジムの自宅で階段の上から母、ジム、父の順で並べ、上からこの家を仕切っているのが母であるという精神的な序列を象徴。
そこで父のふがいなさ、精神的な弱さが露呈します。
後半の階段のシーンではジュディ、ジム、プレイトーの順で並べ、ここでも登場人物の内面性が象徴されている。
話が展開する場所もプラネタリウムを使って、人間は壮大な宇宙の中のちっぽけな生き物だということを象徴する。
決闘のシーンでは必ず高所で、ナイフや車を使った闘いに加え、「落ちると怖い」という恐怖感をさらに視覚的に作り出す。
心の中を文字で表現できる小説と違って映画は基本的に「行動」で人物の内面を描かなくてはいけないので、こういう内面を描く映画は表現が難しい部分があると思うんですが、それを細かい「メソッド演技」とあらゆる演出を付けて表現してあるんですよね。
登場人物は動きまくり、アクションシーンなどの見せ場がちゃんとあるのにも関わらず、内面も繊細に描き出している表現力に脱帽です。
また、色の配色がいいですよね。
後半、ジムが着ているのは強烈な赤のジャケット(タイトル文字と同色)。
それをただ若者の煮えたぎる葛藤としての印象としてでなく、お話の展開としても利用している。
クロスディゾルブ、斜めアングル(これもタイトル文字にありました)も効果的に使用。
いろいろ見どころがありすぎて書ききれないのでこのくらいで。
名作は、役者も作りも抜群ですね。
↓予告編
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『監獄ロック』(1957年 アメリカ)
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エルヴィス・プレスリー当時22歳。
ヒット曲が詰め込まれたロックン・ロール映画
今朝の1日1映画は『監獄ロック』(1957年 アメリカ)を鑑賞。
誤って人を殺し、服役することになったヴィンス・エレベット(エルヴィス)。
刑務所仲間のハンクからでギターを習い歌ったことから才能が開花する。
出所後ロックスターとして人気者になるが…。
大ヒットを記録した主題歌の”Jailhouse Rock”を始め、”I Want To Be Free”,Don’t Leave Me Now”,”(You’re So Square)Baby I Don’t Care”など、プレスリーの歌7曲が楽しめる、軽快なテンポのミュージカル・ドラマです。
私も20歳ぐらいの時にルーツミュージックと言われるものを一通り聞いてはいたんですが、プレスリーはそこまで聞いていなく、どんな人だったのかと思い鑑賞。
まさにロックン・ロール王、プレスリーの歌を堪能できる映画ですね。
映画としてはほぼスタジオセット内で繰り広げられる会話劇で、プロットやカメラワークはそこまで劇的ではなく、スターだから女性がうっとりするようなアップシーンもあるのではと思いきや、ミドルショットで魅せるカットが多い。
BGMとしての音楽もほとんどなく、最小限。
舞台を見ているような感覚で進む、本当に「歌う姿を見せる映画」になっています。
この感じ、舞台化してもよさそうなのになーと思うんですが、これまでそこまで舞台化されていないみたい。
映画公開時は、囚人がヒーローになるというストーリーが、アンチヒーローをもてはやしていると結構たたかれたようですが、エルヴィスのデビュー当時がまさに音楽界の革命児だったので、当時はエルヴィスがやることはすべてが新しかったのかもしれないですね。
個人的には刑務所の独房の鉄格子を見立てたセットで歌うシーンと、刑務所仲間のハンク(ミッキー・ショーネシー)が刑務所内で歌う「♪あと一日 一日ずつ主に近づく…今日一日を大切に…いつかは主の迎えが…あと一日」という歌がとても心に響きまして(←エルヴィスの映画なのにそっち? 笑)
相手役の女性ペギー役のジュディ・タイラーはこの映画の撮影終了3日後に夫の運転する車の交通事故で夫とともに24歳で死去。
プレスリーはこの映画の鑑賞を拒否しました。
いろんな意味で歴史に残る映画ですね。
7/1公開のエルヴィス・プレスリーの生涯を描いた伝記映画『エルヴィス』も楽しみです!
↓予告編
PS:植物好きで、映画の中に出てくる観葉植物やお花をついついチェックしてしまいます。
この映画に出てくる植物はこちら↓
レストランのシーン:サンスベリア
部屋のシーン:モンステラ、ドラセナ、アロカシア(クワズイモ:斑入り)、グラジオラス、ストック、ストレリチア(極楽鳥花)
オフィス:モンステラ、タニワタリ
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『不良番長 口から出まかせ』(1970年 日本)
なんだ、この“ごった煮”感!
梅宮辰夫主演、ハチャメチャなアクション、お色気、爆笑で魅せる不良番長シリーズ第10弾。
今朝の1日1映画は『不良番長 口から出まかせ』(1970年 日本)を鑑賞。
史上最強の愚連隊VS史上最悪の愚連隊が、王座をかけて世紀の対決!天下無敵の不良グループ「カポネ団」は遂に日本脱出をはかる。
たどり着いたのは男性天国、女ばかりのとある漁村。
島の娘を集めて、売春クラブでボロ儲けするカポネ団の前に現れたのは…!?
梅宮辰夫主演、野田幸男監督による不良番長シリーズ第10弾です。
昨日までのスーパーヒーロー『遊星王子』、爽やか青年『殺られてたまるか』ときて、梅宮辰夫が過去にどういう進化を遂げていたのかを見るために主演の人気シリーズ『不良番長』を鑑賞。
あー、なるほど、こっちの路線に。
一言でいうと「おバカ映画」です。
のっけからドクロマークの船の帆が映り、“和製パイレーツ・オブ・カリビアン”かと思いきや、よく見たらボロボロの筏(いかだ)というズッコケなシーンから始まり、もうそこからは何でもありの吉本新喜劇のよう。
大きな目的は「裏で悪事を行っているヤツらの金をゆする」なんですが、ギャグを交えながらあれよあれよという間にお話はテンポよく展開していきます。
主役は梅宮辰夫なんだけど、周りのキャラが見た目もやることも濃すぎて埋もれている…。
特に、山城新伍の主役越えの存在感(笑)。
終始ギャグを練りこんだセリフで、あ、この感じ、どこかで聞き覚えが…。
香港映画『Mr.Boo』の広川太一郎日本語吹き替えバージョンのアドリブセリフに似ていますわー(←大好き)。
スラスラと口から出まかせを言う感じ、ある意味耳に心地よいんですよね。
それにしてもロック歌謡のような音楽から、ヌードで踊るおねーちゃんたち、カッコよさを台無しにする下ネタ、懐かしのバイクまで、70年代の雰囲気がとことん味わえるごった煮感。
主役たちが危険な場面でどこからともなくやってきて助けてくれる兄貴分・菅原文太の登場シーンはまるで西部劇のよう。
あらゆるハリウッド映画の要素を入れ込んで面白い映画にしようという当時の東映制作部長(のちの社長)岡田茂さんの思いが詰まっているのが分かります。
当時人気だったようで、東映最長の全16作品を製作。
子供でも分かるギャグの連発で、今の映画で言うと『今日から俺は!』の雰囲気なんですが、それをもっとハレンチにした大人版っていう感じ。
まあ、このハチャメチャ感は今ではできないノリの映画ですね。
菅原文太がピストルを撃つ時の音は「キューン」と、ちょっと高め。
由利徹の動きだけで笑えるギャグ、小林稔侍や渡瀬恒彦、安岡力也の若い時も拝めます。
日本映画にもこんな時代があったんですね。
今となっては貴重です。
↓予告編
梅宮辰夫さんの21~2歳の頃の作品。変貌ぶりが楽しい↓
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『殺られてたまるか』(1960年 日本)
三田佳子(当時19歳)の女優デビュー作
梅宮辰夫(当時22歳)が腕で闘うアクションドラマ
今朝の1日1映画は『殺られてたまるか』(1960年 日本)を鑑賞。
やくざは父親一代で沢山だと叫びながらも、生活の為にやくざに身を投じる兄(千秋実)。
地味に建設会社でサラリーマンをしながらも、純愛を秘めて血気にはやり、やくざの世界とも知らず足を踏み込もうとする弟(梅宮辰夫)。
血塗られた掟に縛られるやくざの悲哀を鋭くえぐり、慕情と激情を織り成して展開する若林栄二郎監督による痛烈アクションドラマです。
昨日の『遊星王子』の梅宮辰夫さんの他の芝居を見たく鑑賞。
こちらは梅宮さん22歳の時の作品で、イケメンですねー。
梅宮アンナさんも似てるなと思うし、雰囲気が三浦春馬さんにも似てる気が。
相手役の三田佳子さんは当時19歳でこの映画でデビュー。
演技はね、まだおぼつかないというか、可愛らしいというか、慣れていない感じ。
梅宮さんもこの頃はまださわやか&フレッシュで、元ボクサーという役どころだけに、派手な立ち回りの肉弾戦が見ものです。
お話としては、兄と弟の兄弟愛に、親ややくざや恋人たちが絡んでいきという展開。
音楽は状況を盛り立てるBGMが分かりやすく、カメラワークはズームイン&アウトがスムーズです。
ハリウッド映画(例えばフリッツ・ラング監督)のように、話をバサっと省略してつないであるシーンがあるんですが、逆に主要部分を浮き上がらせ、緩急が付いていいですね。
血気盛んなやくざの世界でも、密談をする時は茶室でゆっくり茶を点ててふるまいなら、というのも派手なアクションシーンとの対比ができていいなと思いました。
立場の違う兄弟の愛っていうことで、ちょっと『男たちの挽歌』を彷彿させたりもしますが、こちらはあそこまでエモーショナルではなく、爽やか。
第二東映という若い俳優や監督を起用する会社の製作だけあって、やくざは出てきますが、映画全体には軽やかさがあり青春映画の仕上がりがあります。
この作品がヒットし、梅宮辰夫&三田佳子のコンビでのちに10数本のコンビ作を量産。
でも2人の相性はそこまで…って感じだったみたいですけどね。
「人に歴史あり」を見せつけられる作品です。
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『遊星王子』(1959年 日本)
当時21歳の梅宮辰夫が悪を倒す!
和製スーパーヒーロー特撮映画。
今朝の1日1映画は『遊星王子』(1959年 日本)を鑑賞。
全宇宙征服の野望に燃える銀星人・まぼろし大使が、真城博士が発明した新型燃料を狙って日本を襲撃。
円盤に乗ってやってきた正義の味方・遊星王子(梅宮辰夫)が、地球の平和を守るために立ち上がる!
日本初の宇宙人を主人公にしたテレビドラマとして話題を呼んだ「遊星王子」(1958年11月~1959年9月、日本テレビ系にて放送)の、若林栄二郎監督による映画版第1弾です。
梅宮辰夫さん出演作品はあまり見たことないんですが、こわもてでやくざ映画のイメージ。
若い頃はこんな作品にも出ていたんですねー!
テレビとはキャスティングが異なっていて、テレビ版の遊星王子は顔出ししているんですが、こちらは目と鼻だけ仮面に隠れています。
遊星王子、普段は銀座の街角で靴磨きをしている「ワクさん」というおじさんで、身寄りのない誠君と君子ちゃんという子供を育てているいい人。
ロケット燃料研究をしている真城博士やその息子・一郎君と仲良し。
この時代、テレビはお金持ちの家にしかなく、近所の子供たちはテレビを見るためにそのお宅におじゃましていたんですが、ワクさん、誠君、君子ちゃんの3人は真城博士の家に世界フライ級選手権の試合を見にやってきます。
真城博士の家のベランダには私設の「マキ天文台」も!
衣装や食べ物などに貧富の差が見受けられ、孤児を育てる設定など、高度経済成長の中にも戦争の爪痕が残っていますね。
フライ級の試合開始を今かと待ち構えながらテレビを見ていたら、銀星人・まぼろし大使が地球にやってくるとメッセージを発し…という展開。
出てくる特撮の宇宙船、電子音による飛行音や攻撃音など、チープさは否めないですが、それでもモノづくりに対する情熱みたいなものが伝わってきます。
たぶんこの頃、『月光仮面』(現TBS)や『忍者部隊月光』(フジテレビ)などの特撮が流行ってて、これもその一連のシリーズ(日本テレビ)だと思うんですが、こちらは宇宙や異星人を打ち出してて、スーパーマン的な要素がありますね。
でも見た目ややることがちょっと変化球で、狙ってないのになんだか面白いという。
この作品、アメリカで『プリンス・オブ・スペース』のタイトルで1962年にテレビ放映されていて、アメリカ人の笑いのツボに入るらしく、今でもツッコミどころ満載の笑える映画として語り継がれている作品になっています。
昨年、河崎実監督&日向野祥主演で『遊星王子2021』というのが作られたそうなんですが、あえてこのチープさを踏襲しているみたいで、機会があったらこっちも見てみたいです。
↓オープニング映像(部分)
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『潮騒』(1975年 日本)
アイドル映画と思いきや、面白くなる仕掛けがたくさん!
今朝の1日1映画は『潮騒』(1975年 日本)を鑑賞。
伊勢湾の歌島に住む漁師の新治(三浦友和)は、水汲みをする見知らぬ少女を見かける。
彼女は村一番の金持ちである宮田照吉の初江(山口百恵)で、一人息子を失った照吉が婿を取ることにしたのだ。
強風で漁が休みになった日、新治は戦跡の観的哨跡で初江と会い、そのことを秘密にするが…。
監督は「伊豆の踊子(1974)」の西河克己、脚本も同作の萩原憲治がそれぞれ担当。
三島由紀夫原作の文芸作品の映画化ということで、重い感じがあるのかと思ったんですが大間違い。
オープニングからエヴァンゲリオンの次回予告時の曲みたいなアップテンポでウキウキの曲がBGMになっていて。
舞台が島の田舎町で閉鎖的な社会であるとはいえ、昨日見た憂鬱な田舎町の世界とは真逆で、ポップで明るいアイドル映画のはしりの感じがありますね。
初々しさが半端なくて、本当にキラキラしています(山口百恵はソフトフォーカスにしてあって天使のよう)。
2人が恥ずかしながら下着や裸のようになるシーンも。
大人気アイドルでも体を張っていた時代。
その覚悟に見合うだけのエロティシズムがあって、非常に納得感があります。
世界観はほんとピュアで、2人の心に闇がない。
そのまっすぐな雰囲気と奥ゆかしさが三浦友和と山口百恵にあって役柄にピッタリなんですよね。
お話としては恋人同士の漁夫と海女の恋愛で、「2人の心模様」を描いたシーンと、「障害や困難を乗り越えていく」シーンが素晴らしい。
まず「心模様」としては、映画の冒頭、両肩に天秤棒で桶を担ぎ水を運ぶ少女に出会う新吉→少女がバランスを崩し、水がバシャーッとこぼれる→潮騒が岸壁を打つ→タイトル文字、というカットの流れ。
「水」や「波(潮騒)」の動きを、感情の高まりを象徴するメタファー(隠喩)としてシンクロさせていて、言葉があまりなくとも2人の心の動きを理解できるようになっています。
またライター、焚火、囲炉裏などの「炎」も象徴的に使われていて、メラメラと燃え上がる恋心のよう。
天候である「暴風雨」や「嵐」も、主人公たちの行動を起こすきっかけに使われています(←天候を巧みに入れ込むのは是枝裕和監督もですよね)。
次に、「障害や困難を乗り越える」シーン。
「これができたらご褒美にこれをあげます」という、条件を与えて成長させるという、外発的動機付けの入れ込み方がうまい。
ご褒美を目の前にちらつかせて、それを追う姿を描くことは、それを入手した時の主人公の姿を想像しながら見進めることができて、非常に推進力があります。
主人公が必死で難題をクリアしていく様子は姫を助けるRPGゲームや当時の恋愛バラエティー番組みたいで面白い。
映画の中だとはいえ、障害や困難を乗り越えた2人が結婚したいという気持ちになったのが分かりますわー。
あとは「魚」の使い方や、コントロールできない行動をする「虫」の使い方、いい意味で予想を裏切る展開にもハッとさせられます。
初井言栄の肝っ玉母さんな演技も心を打たれる。
ただのアイドル映画と思ったら、面白くなる仕掛けが随所に忍ばせてある、意外に見ごたえのある映画です。
↓予告編
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『恋人たちは濡れた』(1973年 日本)
俳優たちの圧倒的なエネルギーを感じる
神代辰巳監督による青春映画の歴史的傑作
今朝の1日1映画は『恋人たちは濡れた』(1973年 日本)を鑑賞。
海沿いの田舎町にやって来た克は、映画館のフィルム運びの仕事を始める。
どうやらこの町は克の故郷であるらしいのだが、「お前、克だよな?」と町の住人がいくら詰問しても、母親を連れて来ても「俺、この町は初めてだよ」とヘラヘラ笑うばかり。
克と関係を持つようになった映画館主の女房が、彼の過去に興味を抱くが…。
神代辰巳監督が独特のタッチで描いた日活ロマンポルノ初期の名作です。
神代辰巳監督はすごいっていうのは昔から聞いていたのですが、なかなか見る機会がなくて今回やっと鑑賞。
うん、すごいですね。
何がすごいって、その画面から伝わるエネルギーが。
見終わった今も余韻がすごい。
寺山修司の作品群に圧倒された十代の頃にこの作品に出会っていたらものすごく衝撃を受けて感化されてそうな雰囲気があります。
若者たち、田舎町、わびしく退廃的な雰囲気。
謎の過去を持つ男を主人公に話は展開するのですが、ミステリー要素は感じられず、感情の赴くまま行動する若者たちの姿が切り取られます。
鬱屈した小さな町の中で起こる、小さな波。
そこに何を見出すかでこの映画の面白さが変わる映画かもしれません。
私は「性(生)と死」「巡礼(歌)」を感じました。
まず「性(生)と死」。
人間の本能的な欲求としての性(生)。
大きく言えば、生きたいという生存本能と次世代に子孫を残すという本能。
だけどその裏側には「死」が存在する。
この作品に哀愁があり、心を揺さぶらされるのは、ただセックスシーンなどの「性」を描くことではなく、その裏側にある「死」も同時に描かれていること。
全編に「死」の様相が漂うのは、通常の110分の映画に例えると、後半の3分の2を映画している感じで、あらゆることの顛末の部分を描いているからかもしれません。
次に「巡礼(歌)」。
映画の中に、主人公や女性などが当時流行った歌(三波春夫、都はるみなど)を繰り返し歌うシーンがあります。
流行歌というのは実に刹那的で、それ自体が若者の気持ちのように移り変わるもの。
まるで明日がどうなるか分からない主人公たちの不安定さを象徴しているよう。
謎の男を追ってバスに飛び乗る女がつぶやく「衝動的だね」という一言。
このセリフがすべてを象徴しているような気がします。
また、巡礼の鐘と声明のような声、口上も繰り返し挿入。
男がなぜこの街に戻って来たのか。
その答えがこの流行歌や音楽によって表現されている。
男にとっては巡礼であり癒しでもあり、女にとっては男を見守るマリアの子守歌のようであり。
ひどい描写もあるんですが、ユニークな立ち振る舞いや、包み込まれるような優しい描写もあって、その緩急のふり幅がすごいですね。
砂浜の3人の馬跳びはふざけているようでなんとも言えない「行動」が「感情」生み出すシーンは見事。
ロングショットの美しさ、ジャンプカットの斬新さ。
この時代に女優とはいえ裸になることは今より数倍ハードルが高かった時代だと思うんですが、それでもやるというその覚悟とモチベーションを持った俳優たちが命がけ、全身全霊で取り組む現場の熱量を感じずにはいられません。
女性役の中川梨絵、絵沢萠子の圧倒的な演技や雰囲気も素敵だし、いろんな意味でエネルギーを感じる。
時代背景的に安保闘争後の虚無感が漂う若者たちを捉えた、歴史に残る作品ですね。
予告編↓
TRAILER - Twisted Path of Love (1973) | MUBI
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