『乱れ雲』(1967年 日本)
事故の加害者と被害者との許されない愛。
細かい描写の積み重ねがうねりを作る成瀬監督の遺作。
今朝の1日1映画は『乱れ雲』(1967年 日本)を鑑賞。
夫を交通事故で失った美しい未亡人・由美子(司洋子)とその事故の加害者である青年三島(加山雄三)が、次第に距離を縮め、やがて許されない純愛に悩み苦しむ。
脚本は、日活で「銀座の恋の物語」などを手掛けた山田信夫初の東宝作品。
本作から2年後に監督の成瀬巳喜男は63歳で逝去し、これが遺作となりました。
成瀬監督作品は、「乱れる」に続いて2作目の鑑賞。
「乱れる」は義理の弟と未亡人の愛でしたが、こちらは加害者と被害者未亡人の恋愛。
世間体という「理性」と、愛してしまう「本能」の間で揺れ動く心を、丁寧に描いています。
前半はリアルで、遺族と加害者の気持ちの複雑さ、お腹の子供のこと、お金などのやり取りを細かく描写。
後半はお話の焦点を2人に絞り込んでいき、感情のふり幅も大きくなり、見ていてドキドキします。
「過去は捨てて…」と三島。
女性が生きていく選択肢が今ほどなかった時代にどう生きていくのが幸せなのか。
女性は考え方が現実的で、社会的な弱さもあり、しがらみや囚われ、関係の一線を越えた後のことを考えてしまう性(さが)。
頭ではダメよダメダメと思っていても、その足が、その手が動いてしまうという、人の理性と本能との葛藤。
アクション映画のような劇的なシーンは皆無ですが、主人公たち心の奥底の熱量は半端ない。
セリフの裏にあるその背景や動線などの細かーい描写で綴ってあり、その積み重ねが大きなうねりとなり、心を動かされます。
十和田湖という流れのない湖を「心の揺れ」とともに描き、橋や川、線路、踏切、警笛などを、「記憶」や人生の過去と未来の「境界」のように入れ込み、天気を心模様として映し出す。
由美子の衣装も、前半、夫がいる時の商社勤めの時はカラー付きジャケット、亡くなってからはノーカラージャケットとより女性らしさや弱さを強調。
都会という世間体から離れた土地青森で展開する後半は、人気(ひとけ)が少なく、心の隙を見せる場所ともなる。
森光子、草笛光子、加東大介、中村伸郎など周りの家族は結構明るめ&激しい性格に設定し、主人公2人の不安感、暗さを強調。
天候も象徴的でラストシーンの天候は由美子の心模様そのもの。
歌は人の心をいやすと言いますが、劇中で歌がまさにそういう使われ方がしてあります。
いろいろ気づきがありますが、きっと画面に入っているすべての人・物の意味があり、こだわっているんだろうなーと推測。
引き出しの多い作品です。
↓予告編
成瀬巳喜男監督はこちらも見ました↓
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『薄桜記』(1959年 日本)
市川雷蔵×勝新太郎
「静」と「動」が織りなす美しい映画
今朝の1日1映画は『薄桜記』(1959年 日本)を鑑賞。
浪人の中山安兵衛(勝新太郎)は叔父の助勢に高田馬場へ駆けつける途中、旗本の丹下典膳(市川雷蔵)と知り合い、彼の助言によって決闘の相手を打ち倒す。
しかし典膳は同門の知心流の加勢をしなかったことを非難されて道場を破門。
安兵衛もまた堀内流を破門される。
運命のいたずらか、ともに上杉家江戸家老の名代の妹・千春(真城千都世)へ想いを寄せる二人。
偶然に翻弄され、流転の運命を辿るが…。
高田馬場の決闘から吉良邸討ち入りまでの赤穂浪士の物語を背景に、脚本・伊藤大輔、監督・森一生が市川雷蔵・勝新太郎を主演に贈る日本映画史に輝く傑作時代劇です。
私は「赤穂浪士」とか「新選組」とかそこまで人間関係が分かっていないのですが、そんな人でもこの映画はグッとくる要素で固められていますね。
まず画作りと悲劇の心模様の描写が美しい。
天候を心模様のメタファー(隠喩)として使ってあり、音なく降り積もる細雪、ポツ、ポツと振り出しから土砂降りに変化する雨、まるで『風と共に去りぬ』のように印象に残る夕日…。
安兵衛(勝)、典膳(市川)のライバル2人が言葉を交わすシーンは少ないのですが、お互いがどう思っているのかをこれらの背景や照明、ナレーションで表現していて、直接的ではなく間接話法的な見せ方が日本人ならではのお互いの胸の内を探る感じがあってグッとくるんですよねぇ。
また「お犬様」(生類憐れみの令発令中)や「夫婦雛」などの小道具の使い方も面白く、「橋」や「川」も転機となるシーンで効果的に使用。
演技としては2人の立ち回りと表情。
典膳(市川)はあまりその場を動かず斬るという戦法で、典膳(市川)の凛とした雰囲気、抑制した感情表現にぴったりの殺陣。
特にラストの千春(真城)との雪の中のシーンは美しすぎて死にそう。
逆に安兵衛(勝)は、身振りが大きく、力強く全身で感情表現をする。
悲しい時はむせび泣き、悔しい時は相手をにらみつけて叩き斬る。
この2人の「静」と「動」の対比が美しく、2大スターのいい所を堪能できる1度で2度美味しい映画になっています。
また、表情は、典膳(市川)の方は切なく遠くを見る“雨の日の子犬”、安兵衛(勝)はキラキラ目を輝かせる“生まれたてのバンビ”みたいな表情を一瞬するシーンがあって、あー、これがこの2人の映画俳優としての(アップシーンが印象的な)魅力なんだなと再確認です。
テーマはまさしく「バディとの友情」で、一見主人公は典膳(市川)に見えるんですが、映画を通して大きな心の変化が起きるのは安兵衛(勝)の方で、ラストシーンは新たな一歩を踏み出す安兵衛(勝)を応援せずにはいられない展開。
時代劇って、殺陣だけではなく、その裏にある心模様や心の変化を巧みに入れ込むと、こんなに面白くていい映画になるんだと勉強になりました。
ほんと美しい映画です。
↓予告編
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『陸軍中野学校』(1967年 日本)
これは面白い!
実在した日本のスパイ学校で遂行される静かな狂気
今朝の1日1映画は『陸軍中野学校』(1967年 日本)を鑑賞。
世界情勢が緊迫の度を増す昭和13年、士官学校を卒業し陸軍へ少尉入隊が決まった三好次郎は、自分と同じ幹部候補生らとある場所に集められる。
そこは中野学校という、日本で初めての諜報員養成所であった・・・。
市川雷蔵が国際スパイに扮して、激動の昭和史を暗躍する「陸軍中野学校」シリーズ第1作です。
「陸軍中野学校」というと、4年前に公開された、第二次世界大戦の時に身分を隠して沖縄の各地に潜伏していた「陸軍中野学校」出身者42人を追ったドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』を見ていたので、その存在は知っていました。
けど、陸軍中野学校はタブーとして語り継がれていてそんな表立った存在ではなかったと思っていたんですが、あれまあ、今から56年前にはこんな大スター・市川雷蔵&大監督・増村保造がエンターテインメント作品として題材にしていたなんて…個人的に驚きです。
しかも、そのドキュメンタリー映画のイメージがあるもんだから、覚悟してみたんですが、めちゃくちゃ面白い!
なんでしょう、この推進力は!
「うわーやめてー」「ヤバイヤバイ」など、声に出して感情移入してしまいました。
テーマとしては組織の目標を叶えるために集団が行動することによって、個人の幸せが奪われ、人間を狂わせるという、なんとも悲痛で皮肉な内容。
全編を、学校に入ってきた帝大出のエリート兵・三好次郎目線のナレーションによって語られます。
そのナレーションも淡々と語ることにより、その狂気が一段と際立つ。
主人公・三好次郎が見ているもの、体験することを我々鑑賞者が一緒に体験しているような共感力を生み出しているシナリオです。
スパイ教育の授業も面白くて、ありとあらゆる秘密工作の中に「女性の扱い方」というもあって、黒板には「性感帯」と書いてあり、まじめに授業を受けている様子には笑ったんですが、女性は伏線のように出てきて、スパイにとっては学ばなければいけない存在なんですね。
お話は主軸と副軸の人間関係の転がし方、ねじらせ方が上手くって、ハッとするシーンを手爆弾のようにぶち込んでくることもあれば、じわじわとゆっくり締め上げるように葛藤を入れ込んであるシーンも。
ほんと終始ハラハラドキドキです。
市川雷蔵のスパイとしての変幻ぶり、小川真由美とのラブシーンも美しいんですが、教官役の加東大介の、国のためではなく自分の夢のために奮闘する姿がいいですねぇ。
技法としては「三分割法」が顕著。
対象人物を中心に据えず、左右や上下に配置することにより、構図に美しさが生まれ、緊張感もあります。
軍隊という組織が人をどうしてしまうかを知ることができる反戦映画。
続編もあるので、ぜひ見てみたいです。
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『ある殺し屋』(1967年 日本)
ギャップに驚くクールでスタイリッシュな和製ノワール
今朝の1日1映画は『ある殺し屋』(1967年 日本)を鑑賞。
小料理屋の主人・塩沢は高額な金で殺人を請け負う殺しのプロという裏の顔を持っていた。
暴力団の幹部・木村の依頼で、敵対する組織のボス・大和田を見事に仕留めた塩沢に、木村は弟分にしてくれと近づく。
やがて塩沢の押しかけ女房気取りの圭子と木村は色と欲で結びつき、ある計画を塩沢に持ちかける……。
増村保造(『曽根崎心中』)脚本、森一生(『続・座頭市物語』)監督、宮川一夫(『影武者』)撮影、市川雷蔵を主演に描く和製フィルムノワールです。
市川雷蔵主演映画を立て続けに見ていますが、これはまたすんごい!
他作品とのギャップが!
「人間の一番の魅力はギャップ」と言われるくらい、ギャップは心を動かされる要素。
電車に乗る姿がどう見てもまじめなサラリーマンにしか見えないんですが、これまで見てきた市川雷蔵主演映画の侍、忍者、学生とまたまったく違う風貌で、同一人物には見えないんですよね。
キムタクはどんな役を演じてもキムタクなんですが、1人でどんな役にもなりきれるカメレオン俳優ってものすごい貴重だし、重宝されますよねぇ(その分働きづくめになりますが…)。
また別の顔としての殺し屋がめちゃくちゃクール。
そのどう見ても七三分け真面目そうな品の良い身なりの人が、みんながワイワイしている中でサクっと任務を遂行する。
今、人が倒れたけど、なんで? と思ったら、“タタミ針”で急所を刺されて殺されているみたいな展開で。
任務遂行としては忍者も似たような雰囲気がありますが、『ゴッドファーザー』の「幸せ絶頂直後のどん底」法則で、歓喜からの悲劇というメリハリの付け方もオーっとうなり、クールさがより際立つんですよね。
見進めていくうち、この七三分け、ただ者じゃない、近づくな! のオーラが増してくる。
おもろくないわけないです。
その緊張感のある主役塩沢に、チャラい女・圭子(野川由美子)と、塩沢の弟分になりたい前田(成田三樹夫)というやっかいな2人が絡んできてそのストーリーが転がり乱されていきます。
でも映画の雰囲気は雑にならずに、不思議と凛とした雰囲気を保っているのは、感情を抑えた塩沢の演技に加えて、宮川一夫の撮影による無彩色に近い色味の背景のせいかもしれません。(カラフルな色はヘアメイク・衣装で圭子に特化)
また過去や未来(中過去)の回想が前後して挿入されるんですが、前後のカットに関連したカット(手→手、料理→料理のように)でつないであることで違和感なくスッと見進めることができるせいもあるのかも。
殺陣などの見せ場ももちろんあるんですが、映画を見始めた時の印象と、ラストの印象がここまで違うかというくらい、背中で語る1人の男の生き様を見せつけられた感があります。
音楽も哀愁があるし、衣装も途中、塩沢が着物姿になるシーンがあるんですが、歌舞伎役者だけにさすがに品があって様になっていて、殺し屋とのギャップをさらに作り出していて効果的。
戦争で生き延びた人々の思いもちゃんと織り込んであって、人間関係にも深みもある。
フランスやイタリア映画の影響も見れるようですが、日本映画でもこんなにクールな映画があるんですねぇ。
続編もあるので、いつか見てみたいと思います。
PS:個人的には手のシーンが好きなのと、小林幸子が出てるのに、顔を見ても分からなかったです…。
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『眠狂四郎無頼控 魔性の肌』(1967年 日本)
「神が人を作ったのではない。神こそ人によって作られたのだ!」(映画より)
日本×オランダバテレンの混血剣士の苦悩と活躍
今朝の1日1映画は『眠狂四郎無頼控 魔性の肌』(1967年 日本)を鑑賞。
ある夜、狂四郎(市川雷蔵)は、武家屋敷の前で美しい娘(鰐淵晴子)に呼びとめられ、父の頼みを聞いてほしいと懇願される。
娘の父、闕所物奉行の朝比奈修理亮(金子信雄)は、切支丹の秘宝を京へ運ぶ命を受けたが、隠れ切支丹の黒指党が、秘宝を狙っているので狂四郎に護衛してほしいというのだ。
その場は断った狂四郎だったが、後日、依頼を引き受ける。
報酬は娘・ちさの操という条件で…。
柴田錬三郎の剣豪小説シリーズを映画化し、市川雷蔵の代表作となった眠狂四郎の活躍を描くシリーズ9作品目です。
眠狂四郎については田村正和がなんかやってたなぐらいで、まったく知らなかったんですが、この作品でどんな人物かやっと知りました。
『大菩薩峠』のダークヒーロー、女と酒と人斬りっていうニヒリストな部分は机竜之助に似てるんですが、机竜之助には描かれていない、「なぜ虚無な人になったのか」という背景としての生い立ちが描かれているので(母がバテレンに犯されて生まれた子)、そこは納得感があります。
そのキャラクターに、守るものとやっつける者に区別があり、返すセリフに人生観などの知的さが加わっていて、人としてはダメな部分もあるんだけど、それらが駄目さを上回る。
共感できるキャラクターになっているんですよね。
眠狂四郎自身は己に混沌とした思いを持ち、自分探しの旅をするんですが、行動としては勧善懲悪の分かりやすさがあり、そのバランスというのが絶妙。
RPGゲームのように姫を守りながら弱い敵を倒し、ラスボスまでをやっつける爽快感。
敵の種類、武器アイテムや剣術にも種類があり、「円月殺法」などの殺陣シーンは見ごたえあります。
遠近法が際立つ配置、エロスを美しく入れ込むカットつなぎ、スター役者の一瞬の表情の変化を逃さないアップショットなど魅せる画となっています(ちょっとグロさもありますが…)。
音楽がねー、これまたジャズテイストで迫力あるホーンセクションや軽快なフルート、哀愁あるギターなど、非常に印象的なんですが、のちに「巨人の星」「機動戦士ガンダム」などの音楽を手掛けた渡辺岳夫によるものです。
美術も風になびく色とりどりの無数の帯が美しい。
ダークヒーローだけど共感できる、眠狂四郎。
これぞ日本のエンターテインメントですね。
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『炎上』(1958年 日本)
三島由紀夫×市川崑×市川雷蔵が追求する「美」のカタチ
今朝の1日1映画は『炎上』(1958年 日本)を鑑賞。
昭和19年春、溝口吾一(市川雷蔵)は田山道詮老師(中村雁治郎)が住職を務める京都の驟閣寺(しゅうかくじ)に、徒弟(とてい)として住み込むようになった。
吾一にとって驟閣はこの世で最も美しいものであり、信仰に近いまでの憧憬の念を抱いていた。
だが戦後、観光地と化した寺の経済は潤い、老師の生活も一変。
吾一は違和感をつのらせていく…。
市川雷蔵が初めて挑んだ現代劇出演作は、三島由紀夫の傑作「金閣寺」を、名匠・市川崑監督、撮影・宮川一夫との最強コンビで挑んだ意欲作。
キネマ旬報ベストテン、ブルーリボン賞で主演男優賞に輝くなど、絶賛を浴びた作品です。
これは何から書いていいのか分からないくらい深く心に刻まれる映画ですね。
当時時代劇で人気絶頂の花形スターだった市川雷蔵が、脚本を読んでぜひやりたいと周りの反対を押し切って挑戦した、国宝に火を放つ吃音の青年という難役。
これまで見てきたいわゆる“型”のある時代劇とは全く違って、この映画にはノーメークで内向的な性格の青年を演じる別人のような市川雷蔵がいて、それもその表情の奥に、この青年の一生を背負ったぐらいの深みがある。
市川雷蔵という変幻自在な役者の表現力にまた一つ魅了されています。
原作者・三島由紀夫がこの映画を見て傑作と絶賛し、雷蔵もこの作品で文芸作品に出演したいという役者魂に火が付き、その後三島原作・三隅研次監督『剣』に出演。
三島由紀夫と市川雷蔵、お互いを気に入ったというのが、なんか分かる気がするんです。
理想的な美を追求する姿勢が似ているというか。
この作品の主役溝口吾一も、美や体制が永遠ではないことや、理想と現実の違いにさいなまれる役で三島を象徴している気がします。
ボディビルなどで己の美や思想的に理想を追求した三島と、私生活を見せず、仕事には貪欲で、まじめで努力家、舞台やカメラの前の経つと別人になる雷蔵は方向性がなんか近いのかなと。
そこに市川崑の美しい映像が加わると、揺らがない美が完成するんですよね。
技法として一番印象的なのは、現在のシーンと回想シーンとのカットつなぎにシームレスな方法を用いていること。
色やフィルターなどを使って、ここから回想ですよーと回想シーンを分かりやすくするのではなく、わざと現在と過去を芝居がつながっているようにカットをつないであって。
映っている人はそのままで、背景だけがクロスフェードで変わるというシーンも何か所かあって、どうやってるのかなーと興味深々でした。
そのことによって白昼夢のような雰囲気が醸し出され、疎外感を受けている主人公の心象を強調できる。
小説は主人公の心情を文章化できますが、映画は基本的に(独り言やナレーション以外は)行動や表情でそれを表さなきゃいけないというのがあって、なかなか小説の映画化は難しい部分がありますが、この作品はそこがこういった技術によってある程度カバーされている気がします。
すでにカラー映画の時代にわざとモノクロで撮って、シネマスコープの大画面で見せているこの映画。
カメラマンは黒澤映画などで有名な宮川一夫。
アップショットではその感情がリアルに伝わり、キラキラした火の粉までが印象に残るほど美しいです。
「金閣寺」はいろんな人が舞台化(最近は宮本亜門など)してますが、映画化が意外にもこの作品含めて3作品と少ない。
この作品が素晴らしいので、映画化しづらいのかな…。
仲代達矢の存在感も素晴らしい。
ほんとに見てよかったです。
↓予告編
『浮かれ三度笠』(1959年 日本)
市川雷蔵×中村珠緒の
キュンキュン系ラブコメディ!
今朝の1日1映画は『浮かれ三度笠』(1959年 日本)を鑑賞。
将軍・吉宗は、甥の松平与一郎と宗春の娘・菊姫(中村珠緒)とを強引に結婚させようと企んでいた。
これに反発した菊姫は家出!
ところが同じ頃、与一郎も家出していた。
二人の探索を命じられた兵馬(本郷功次郎)は、道中お調子者の旅鴉・与三郎(市川雷蔵)という男と意気投合し、道連れになるが……。
「人肌牡丹」の松村正温のオリジナル脚本を「濡れ髪三度笠」の田中徳三が監督。
「濡れ髪シリーズ」計5作の第3作です。
市川雷蔵という役者を多角的に見てみようと思い鑑賞。
これは一見時代劇ですが、中身や要素はまるで現代劇のようなラブコメですね!
嫌な相手が実は〇〇だった! みたいな展開のキュンキュン系。
セリフの中に「ファニーフェイス」なんていう横文字も出てくるし、ミュージカルのように歌い踊るかしまし娘(若い!)の華やかさもあって。
個人的に大好きな、中村珠緒の悪い奴らから逃げる時の“肩から走る”走り方(日本舞踊的で美しい)も何度も見れて満足です。
この映画の市川雷蔵は、しゃべり方がいいですねぇ。
これまで見てきた主演映画で彼が演じていたのはダークヒーロー(『大菩薩峠』)、忠誠を尽くす忍者(『忍びの者』)でしたが、こちらは風来坊で寅さんのようなキャラクター。
セリフの一つ一つに洒落が聞いていて、寅さんの口上のようにリズム(節)がある。
セリフの言い回し自体が歌って躍っているんですよね。
身軽に風に乗って軽やかにどこにでも飛んでいきそうな風来坊のキャラクターにぴったりです。
喜劇役者って呼べる役者さんって今いるのかな…。
当時はたくさんいて、寅さんのほかにクレイジー・キャッツやコント55号、森繁久彌、フランキー堺などが喜劇映画に出てたと思うんですが、きっと喜劇役者独特の口調っていうのがあって(まだ見ていない作品がたくさんあるので予想ですが)それをこの映画でも市川雷蔵がやっているんです。
市川雷蔵は京都出身なので元々は関西弁ですが、この江戸っ子言葉がすんごくハマっている。
渋い役もいいですが、こういった軽快なコメディでは笑顔もたくさん見せていて、また別の顔(本当に役によって変わりますね)を見た気がします。
撮り方は室内ではズームアウトで状況説明、クレーンで回り込むように人物を撮ってありなめらか。
素早いパンで人物を追うカットもたくさんあってテンポがあります。
面白いのは障子を使ったシルエット&ピンスポットで暗闇の中で大事な書状を奪い合うシーン。
歌い踊るシーンなど舞台っぽいシーンではカメラ目線も入れ込んであって、ある意味「第4の壁」を破っているシーンもあります。
音楽もクラシックや西洋風ですしね。
また一つ、市川雷蔵の魅力を発見してしまいました。
PS:この映画での兵馬役は『大菩薩峠』ので同じ名前・兵馬役をした本郷功次郎でした。